「引き裂かれたユーラシア: 作られた国境をめぐって」
7月10日、2009 年度スラブ研究センター夏期国際シンポジウム第4セッションにおいて「引き裂かれたユーラシア: 作られた国境をめぐって」 が開かれ た。
本セッションは、境界問題を抱える3国(インド、アフガニスタン、パキスタン)の地域研究者が一堂に会したことからも分かるように、グローバルCOEプ ログラム「境界研究の拠点形成」のプレ企画として位置付けられるものである。さらに討論者の広瀬崇子教授(専修大学)が指摘したように、報告者全員が首都 ではなくまさに紛争地帯に位置する研究機関からのゲストであることも大きな特徴となっている。
カウ氏(カシミール大学)、リワル氏(アフガニスタン地域研究センター)、カーン氏(ペシャワル大学)ともに、イギリス統治下による線引きが、この地域 の未発展、不安定の根源であると指摘した。カウ氏はこの地域にはかつて中国・インド・中央アジアをつなぐ自由な交易路があり、豊かな文化と経済的繁栄をも たらしてきたが、1947年以降に境界が厳格になり発展の足枷となっていると主張した。リワル氏、カーン氏はともにイギリス統治下で導入された連邦直轄部 族地域(FATA)や辺境刑法(FCR)やソ連のアフガニスタン侵攻が今日の→アフガン・パキスタン間地域の不安定の根源となっていると強調した。
これに対し、討論者から、境界画定以前の過去を美化しすぎではないか、とのコメントがなされた。また、これらの地域を外部勢力の犠牲者と見なすと、解決策 も外部の力に頼りがちになるのではないか、むしろ内部要因(地方権力)が外部につけこんだ側面もあるのではないか、との指摘もなされた。司会の吉田修教授 (広島大学)からは、実現可能な解決策を考えるには、紛争地域のみならず中央の専門家も交えるべきではないかとの意見が出た。
本セッションで行われた議論は、境界研究を進める上で多くの示唆を与えたと感じられた。なお、本グローバルCOEプログラムでは、これらの報告をベースに した論文集の発行を予定している。
(藤森)