北海道から見ると、鉄のカーテンに閉ざされた遠い向こうの世界だったクリル(千
島)列島やカムチャツカ半島は、ソ連やロシアの人々の目には、どのように映っていたのでしょうか。国後島や色丹島は、1960年代半ばから、モスクワやウ
ラジオストク、またサハリンの画家たちがしばしば訪れた土地でした。特徴的な姿を見せる火山と美し
い入江、水産加工場やそこで働く労働者たちは、画家たちが好んで取り上げたモチーフです。境界は、膨大な数の絵画によって描き出され、ソ連・ロシアの新し
い風景が作られていたのです。一方、1996年にユネスコ世界自然遺産に登録されたカムチャツカ半島は、雄大な風景や多彩な動植物、温泉、火山、北方森林
など“豊かで手つかずの自然”
に恵まれ、科学者たちの格好の研究対象となってきました。この地はロシア極東に位置し、これまでほとんど見向きもされなかった場所ですが、鉱物・エネル
ギー資源や水産・林産資源を始め、観光資源にも恵まれていることから、最近になって急速に世界各国の関心を集めるようになりました。
本展示を通して、“近くて遠い”クリル・カムチャツカの過去・現在・未来を理解し、境界問題を考えて頂ければ幸いです。
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シ コタン・グループの活動 色丹島や国後島に
は、ソ連時代から数多くの画家が訪れていた。とくにモスクワと沿海地方(ウラジオストクとウスリースク)出身の画家からなるシコタン・グループの活動が重
要である。 |
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旅 するサハリンの画家たち サハリンは、もともとは北方の先住民族が暮らす土地だったが、現在ではロシア人をはじめとするソ連の各地方の出身者や、多くの韓国系の人々が住んでいる。 サハリンの画家たちは、シコタン・グループのメンバーではないが、やはりクリル列島を旅して、数多くの風景画を残している。移住者である彼らは、自然や風 土を詳しく観察することにより、異境を故郷であるかのように見つめている。描き出された風景は、実際の景観を写すだけでなく、幻想的な心象の風景へと姿を 変えていく。自らをその土地に重ね合わせる風景画によって、人々はそこに住む者となるのである。 |
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知床岬や納沙布岬に立ち、北を眺めれば、 多彩な動植物、温泉、火山、北方森林等に 恵まれたカムチャツカに連なるクリル列島を 望むことができる。日本列島の北東延長に 隣接するものの、歴史・政治的背景から「近 くて遠い存在」である。 日本人にとって比較的馴染みの薄いクリル列 島とカムチャツカ半島の自然や人の生活など に焦点を当て、未開ではあるが様々な資源に 恵まれ、将来的に大きな発展が期待される本 地域の現状と将来について紹介したい。 |