第9期となる本展示では、シベリア抑留による境界移動の心象を中心題材として描
いた画家香月泰男、境界移動によって失われた生地、樺太の位置づけを問う詩人・文筆家工藤信彦、ユーラシアを隅々まで歩き、紛争の現場をとらえ解決に身を
賭した国際政治学者秋野豊、島嶼・農山漁村をくまなく歩き、忘れられた日本人の暮らしに光をあてた農民学者・社会運動家宮本常一を、境界研究の先人とし
て、その足跡を辿ります。
|
工藤 信彦(1930- ) 樺太大泊生まれ、1945年、14歳の時に樺太庁の緊急疎開令によって離島。その後、札幌南高校、藤女子高校、成城学園高校などで長く国語教育にたずさわり、教育関連の論
文、教材づくりで多くの業績を残す。退職後の現在、財団法人全国樺太連盟理事をつとめ、自らの生地である樺太の資料を丹念に収集している。樺太の開拓、植
民、引揚の過程をみつめる中で、樺太の位置づけを問い続け、学生時代より志した詩に託して表現している。 |
|
香 月 泰男(1911-1974) 山口県三隈生まれ。幼少より画家を志す。東京芸術学校(現:東京芸術大学)に入学し、画家として順調な出発をする。太平洋戦争時には満州に従軍し、終戦後 はシベリア抑留者となる。復員後、4年半の軍隊体験・シベリア体験を題材とした「シベリア・シリーズ」全57点を約30年かけて発表した。黒と褐色を中心 とする独自の手法と印象性は、日本美術界の中でも高い評価を受けている。 |