GCOEセミナー「オホーツク海における水産資源の持続的利用」(7/12)参加記
2011/07/15
2011年7月12日、スラブ研究センター大会議室において、ボーダースタディーズ・セミナー「オホーツク海における水産資源の持続的利用」が行われました。講師の西内修一さんは、北海道立総合研究機構栽培水産試験場でホタテやサケの栽培漁業について調査研究をされています。
今回のセミナーでは、北海道のオホーツク海沿岸域で行われているホタテガイやサケの栽培漁業のメカニズムや問題点、さらにカニ類の資源状況とケガニの資源管理型漁業の実践例などについてお話ししていただきました。
オホーツク海で行われている漁業のうち、そのほとんどを排他的経済水域とするロシアの漁獲量全体が年間約100万トンであるのに対して、北方領土周辺海域を除いた猿払から知床までの非常に狭い沿岸海域だけで年平均40万トン近い漁獲があります。かつてはこの地域ではスケトウダラなどの天然資源の漁獲がほとんどを占めていましたが、70年代を境にホタテガイやサケの栽培漁業が盛んになり、現在はそれらが約8割を占めるようになりました。その背景には、オホーツク海における天然資源の枯渇、および70年代後半からの各国の200カイリ漁業水域の設定による遠洋漁業の衰退などがあり、そのような厳しい状況を克服するために同沿岸地域の漁民、漁協の努力によってホタテなどの栽培漁業が発展しました。特にホタテガイについては、日本海沿岸で稚貝を育て、トラックで輸送してオホーツク海沿岸海域に放流し、4年後に漁獲するという4年サイクルの漁業が毎年行われています(4輪採制)。
一方で、近年の温暖化傾向が原因と考えられるオホーツク海の流氷の減少によって、冬に海が荒れることが多くなり、シケでホタテが丸ごと死んでしまうケースが増えてきています。4年サイクルの漁業を行っていることから、そのようなことが起こると特定の年にはまったく漁ができないという事態になりかねず、近年の環境変動によるホタテ漁への悪影響が懸念されています。
また、稚貝の過剰な放流や、ホタテが育ちにくい水深の深い沖合への放流が原因と考えられるホタテガイの小型化と漁価低下を防ぐために、放流量の適正化や放流区域の最適な設定といった管理が試みられています。さらに、温暖化に伴う水温上昇などの環境変動に適応できるような強いホタテの遺伝資源を保全する取り組みも行われています。
他方、オホーツク海沿岸のカニ類に関しては、近年の資源状況は悲観的なレベルに達していますが、ケガニについては一定量の漁獲が確保されています。これは様々な取り組みの結果によるものですが、中でもTAC(漁獲許容量)の決定や海域の資源調査に対して漁業者が直接参加・コミットするボトムアップアプローチが採られていること、また、ホタテガイとサケの生産増による漁業経営の安定が主な原因であると指摘されました。
会場からは、オホーツク海沿岸漁業の実情と歴史的推移に関する質問や、最初から最後まですべて管理しながら漁獲する養殖と栽培漁業との違い、オホーツク海の漁獲量や資源調査についてのロシアとの漁業交渉の問題、またホタテガイ漁業に対して河川との生態学的関係がどのような影響を与えるのか、などといった多様な質問が出され、参加者は近くに住みながらもあまり見聞きしたことのない貴重なお話に聞き入っていました。
(スラブ研究センター学術研究員 花松 泰倫)
今回のセミナーでは、北海道のオホーツク海沿岸域で行われているホタテガイやサケの栽培漁業のメカニズムや問題点、さらにカニ類の資源状況とケガニの資源管理型漁業の実践例などについてお話ししていただきました。
オホーツク海で行われている漁業のうち、そのほとんどを排他的経済水域とするロシアの漁獲量全体が年間約100万トンであるのに対して、北方領土周辺海域を除いた猿払から知床までの非常に狭い沿岸海域だけで年平均40万トン近い漁獲があります。かつてはこの地域ではスケトウダラなどの天然資源の漁獲がほとんどを占めていましたが、70年代を境にホタテガイやサケの栽培漁業が盛んになり、現在はそれらが約8割を占めるようになりました。その背景には、オホーツク海における天然資源の枯渇、および70年代後半からの各国の200カイリ漁業水域の設定による遠洋漁業の衰退などがあり、そのような厳しい状況を克服するために同沿岸地域の漁民、漁協の努力によってホタテなどの栽培漁業が発展しました。特にホタテガイについては、日本海沿岸で稚貝を育て、トラックで輸送してオホーツク海沿岸海域に放流し、4年後に漁獲するという4年サイクルの漁業が毎年行われています(4輪採制)。
一方で、近年の温暖化傾向が原因と考えられるオホーツク海の流氷の減少によって、冬に海が荒れることが多くなり、シケでホタテが丸ごと死んでしまうケースが増えてきています。4年サイクルの漁業を行っていることから、そのようなことが起こると特定の年にはまったく漁ができないという事態になりかねず、近年の環境変動によるホタテ漁への悪影響が懸念されています。
また、稚貝の過剰な放流や、ホタテが育ちにくい水深の深い沖合への放流が原因と考えられるホタテガイの小型化と漁価低下を防ぐために、放流量の適正化や放流区域の最適な設定といった管理が試みられています。さらに、温暖化に伴う水温上昇などの環境変動に適応できるような強いホタテの遺伝資源を保全する取り組みも行われています。
他方、オホーツク海沿岸のカニ類に関しては、近年の資源状況は悲観的なレベルに達していますが、ケガニについては一定量の漁獲が確保されています。これは様々な取り組みの結果によるものですが、中でもTAC(漁獲許容量)の決定や海域の資源調査に対して漁業者が直接参加・コミットするボトムアップアプローチが採られていること、また、ホタテガイとサケの生産増による漁業経営の安定が主な原因であると指摘されました。
会場からは、オホーツク海沿岸漁業の実情と歴史的推移に関する質問や、最初から最後まですべて管理しながら漁獲する養殖と栽培漁業との違い、オホーツク海の漁獲量や資源調査についてのロシアとの漁業交渉の問題、またホタテガイ漁業に対して河川との生態学的関係がどのような影響を与えるのか、などといった多様な質問が出され、参加者は近くに住みながらもあまり見聞きしたことのない貴重なお話に聞き入っていました。
(スラブ研究センター学術研究員 花松 泰倫)