拠点形成の目的
グローバルCOEプログラム(Global Center Of Excellence Program)
とは、我が国の大学院の教育研究機能を一層充実・強化し、国際的に卓越した研究基盤の下で世界をリードする創造的な人材育成を図るため、平成19年度に導
入された日本学術振興会の補助金事業です。
国際的に卓越した教育研究拠点の形成を重点的に支援し、国際競争力のある大学づくりを推進することを目的としており、グローバルCOEプログラム委員会が申請を審査し、採択が決定されます。
北海道大学の文系を結集して組織する「境界研究の拠点形成:スラブ・ユーラシアと世界」(平成21年度採択)は、今日、ユーラシア各地で国境問題、 文化摩擦といった形で生じている境界をめぐる対立・紛争を実態・表象の双方から考察し、境界問題を読み解くための新しい研究領域・拠点を確立することを目 指しています。さらに境界研究に関する国際的ネットワークがないこの地域に境界研究ネットワークを立ち上げて、世界の境界研究コミュニティの一角を占める ことを目的としています。
教育面では「境界研究」教育講座を開設し、内外の若手研究者をターゲットとした受講者に対し修了書を発行するとともに、博物館展示、政策提言を通じて得られた成果を広く社会に還元します。
理念と概要
境界事象とは、人間が生存する実態空間そのものと、その人間が持つ空間認識・集団認識のなかで派生する差異化(自他の区別)をもたらすあらゆる現象を指し ます。いわば境界事象を研究することは、その差異化の形成・変容を研究することになり、ひいては、差異化から生ずる紛争メカニズムの解明にもつながりま す。
現代社会においては、実態空間は国家と国家の接触点(国境)であり、そこに住む人間が持つ空間認識や集団認識とズレることによって、民族対立や国境 紛争が生じます。境界が崩れ(脱境界化)、新たに見直され(再境界化)、そしてそのような境界によって分断されあるいは境界を跨ぐことで自他の認識が影響 される (跨境化)現象が全世界で共時的に表出しているのです。
これらの境界は実態も認識もズレを抱え込みながら、歴史のなかで再生産され続けるものであり、絶対的なものではありません。境界研究とは、このよう な境界事象にかかわる問題をどのように読み解くかという問題意識を持ちつつ、具体的な地域において問題の存在を探り、その問題の様態を考察し、解決方法を 模索しながら行いますが、併せてその解決実現に向けて提言をも行うことも念頭に置いています。
何故スラブ・ユーラシアなのか
冷戦終結によってソ連・東欧地域では、ソ連時代に引かれた国境や、社会主義ブロックによって人為的に形成されていた境界の解体・再編を通じて、実態 (国境)と表象(人間の認識)の相克が顕著なものとなり、各地で境界を巡る紛争を引き起こしています。紛争は、旧ソ連圏に限らず、広くスラブ・ユーラシア 及びその隣接地域でも生じています。
この境界研究の本拠点をスラブ・ユーラシア地域を軸とした地域研究の成果をもとに、世界に広げようとするのは、この地域で実態と表象の双方において この境界事象が様々な様態で表出しているからです。スラブ・ユーラシア地域とその隣接地域で生じた事象は、ある意味で世界の地域紛争や対立・統合を理解す る様々な手がかりを与えてくれると考えられます。一方で、これまでのこのエリアの研究は、個別的な事象研究にとどまっており、研究戦略やダイナミズムが欠 如していました。本拠点は、各エリアごとの「蛸壺」的現状にある地域研究を、境界研究のアプローチにより、人文・社会系の新領域として立ち上げることを目 指しています。
何故北海道大学なのか
境界事象にかかわる研究を実践するのに、北海道大学は最適なポジショニングをもっています。第1に地理的・歴史的な意味での境界にあり、東アジアのみな らず、(広い意味でヨーロッパ文化につながる)ロシアを軸とした他地域・他文化との接触前線に位置しています。第2にスラブ研究センターという当該地域研 究における全国共同利用施設をもち、スラブ・ユーラシア地域研究のこれまでの研究蓄積を発展させることで本拠点形成の中心を担えます。第3に、スラブ・ ユーラシア及び隣接地域の実態研究を担うスタッフを有するのみならず、境界にかかわる差異化をもたらす全ての関係性や境界表象にかかわる研究領域を担うべ き人材が、学内各人文・社会系大学院研究科に存在しています。なかでも文学研究科の多様な人的リソースとこれまでの教育成果は、人材育成において人文・社 会連携の教育を牽引することが期待できます。第4に総合博物館の存在です。フィールドワークの知見を集積し、かつ現場の臨場感で教育しうる博物館と連携す ることで、地域研究の新たなアプローチとその総合による成果を斬新なスタイルで内外に発信することが可能となります。