スラブ研究センターニュース 季刊 2009 年夏号 No.118 index
去る6月19日(金)に、2009年度の外国人研究員アンドリイ・ダニレンコ氏の講義が東京大学文学部現代文芸論研究室、スラブ語スラブ文学研究室 およびスラブ研究センターの共催で、東京大学にておこなわれました。幾分特殊なテーマであったように思いますが、ダニレンコ氏の熱心な講義の後には積極的 な質疑応答が続き、盛況のうちに終わりました。
東京大学での講義のようす
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講義題目は「東スラブ語における「持つ」こと:be型とhave型の間で」で、ロシア語を中心としたスラブ諸語類型論の講義でした。所有表現をbe動詞と have動詞を基準とした言語類型は、E.バンヴェニスト、A.イサチェンコ、B.ハイネといった多くの言語学者たちが取り組んできた課題で、今日でもア クチュアルな研究テーマの一つと言えるでしょう。この分類に従うと、ロシア語をはじめとした東スラブ諸語はいわゆるbe動詞言語であるというのが通説です が、ダニレンコ氏は言語類型論、歴史言語学、東スラブ諸語方言学の立場からこの問題を再検討し、東スラブ諸語は純粋なbe言語ではなく、be動詞および have動詞の二つのシステムが並立していることを示しました。
左:佐藤昭裕先生、右:ダニレンコ氏
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会場となった本郷キャンパスの文学部3号館は、私が20代の殆どを過ごした懐かしい場所ですが、スラブ語学関係の講義で受講者が一杯になった教室を見るの は、まことに嬉しい限りでした。本講義の実現にご尽力くださった東京大学の沼野充義教授および関係者の方々にお礼申し上げます。
また、ダニレンコ先生は7月10日(金)には京都大学大学院文学研究科スラブ語学スラブ文学研究室にて、ウクライナ語を話題の中心にすえ「be型か have型か、ウクライナ語は過渡的な言語か?」と題した講演をされました。ご協力くださいました京都大学の佐藤昭裕教授とご出席くださった方々にお礼申 し上げます。
尚、ダニレンコ先生の言語類型論研究は、先生のご著書Slavica et Islamica: Ukrainian in Context(Otto Sagner社より2006年刊行)で読めますので、ご興味をお持ちの方はご一読をお勧めいたします。