2000年度スラブ研究センター夏期シンポジウム
ロシア文化:新世紀への戸口にたって
Russian Culture on the Threshold of a New Century
2000年7月12日(水)〜15日(土)
I. オープニング・フォーラム(於北大クラーク会館)
7月12日(水)
18:00-20:00 企画者挨拶 望月哲男(SRC)
オープニング・スピーチ 村上隆(SRCセンター長)
・ リサイタル『ロシアからの声』D.プリゴフ(ロシア:詩人)
司会:E.ヴラーソフ(北海道開発問題研究調査会)通訳:吉岡ゆき
・ 対 談『ロシア文化:東と西の視点』(英語)
K.アイメルマッハー(ルール大/ドイツ)山口昌男(札幌大)司会:沼野充義(東大)
II. セッション (使用言語はロシア語または英語)
7月13日(木)9:30-17:15
9:30-11:30 第1セッション:ロシア文化のパラダイム〔423号室〕
・ K.アイメルマッハー(ルール大/ドイツ)「ロシア文化のパラダイム変化(1987-1997)」
・ D.プリゴフ(詩人/ロシア)「ヨーロッパの4大社会文化プロジェクトの完成」
・ P.トーロプ(タルトゥー大/エストニア)「文化の新パラダイム/文化記述の新パラダイム:ロシアの場合」
討論:貝澤哉(早大) 司会:井上紘一(SRC)
13:00-15:00 第2-1セッション:小説の可能性〔423号室〕
・ B.ラーニン(教育学アカデミー/ロシア/SRC)「現代文学における歴史の変容」
・ 沼野恭子(東京外大)「新しい神話の創造にむけて:“女性文学”の現在」
・ 亀山郁夫(東京外大)「現代ロシア文学の身体」
討論:毛利公美(東大) 司会:望月恒子(北大)
第2-2セッション:現代ロシア音楽の諸相〔328号室〕
・ 鈴木正美(稚内北星学園大)「セルゲイ・クリョーヒンと1980-90年代のアヴァンギャルド音楽」
・ 安原雅之(山口大)「ウストヴォーリスカヤとロシア音楽」
・ 梅津紀雄(東大)「ショスタコーヴィチとシュニトケ」
司会:諫早勇一(同志社大)
15:15-17:15 第3セッション:映像と文化〔423号室〕
・ V.アルセーニエフ(NTV映画、映画人同盟/ロシア)「ロシアの映画(1999/2000):悲劇のあとで」「現代ロシアのテレビ」(2報告)
・ 西周成(全ロ国立映画大院卒)「ペレストロイカ以降のロシア映画文化の展望」
討論:沼野充義(東大) 司会:宇多文雄(上智大)
18:00-20:00 レセプション(札幌アスペンホテル)
7月14日(金)9:30-17:15
9:30-11:30 第4セッション:演出される言葉〔423号室〕
・ 楯岡求美(神戸大)「変異する言葉:演劇と演出の位相」
・ V.グレチコ(ルール大/ドイツ/SRC)「アヴァンギャルドの言語哲学実践」
・ 望月哲男(SRC)「古典をめぐる遊戯:現代小説におけるドストエフスキイ」
討論:武田昭文(富山大) 司会:川端香男里(川村学園女子大)
13:00-15:00 第5-1セッション:新環境の中の文学〔423号室〕
・ 井桁貞義(早大)「インターネット上の芸術表現:ロシアの場合」
・ E.ヴラーソフ(道開発問題研究調査会)「文学テクストへのマルチメディア的注解」
・ V.スモレンスキー(会津大)「ロシアのインターネット文学」
司会:鈴木淳一(札幌大)
第5-2セッション:シンボリズムと言語哲学〔328号室〕
・ 大須賀史和(東京外大)、木部敬(同)「シュペートとローセフの哲学における“シンボル”概念の変容と“言語論的転回”」
・ 北見諭(早大)、柿沼伸昭(東大)「A.ベールイとV.イワーノフによる“シンボル”概念の根拠づけ」
討論:V.ジダーノフ(札幌大)、 西中村浩(東大) 司会:杉浦秀一(北大)
15:15-17:15 第6セッション:ロシアとアジア〔423号室〕
・ A.ゲニス(評論家、ラジオ・リバティ/アメリカ)「魂の写真:現代文学の東方戦略」
・ S.ラコバ(人文科学研/アブハジア/SRC)「フレーブニコフとアジア」
・ 中村唯史(山形大)「90年代ロシア文芸誌におけるコーカサス」
司会:木村崇(京大)
7月15日(土)
9:00-17:00 遠足 余市・小樽方面
◆ 夏期国際シンポジウムの開催 ◆
2000年度のセンター夏期国際シンポジウムは「ロシア文化:新世紀への戸口に立って」というテーマのもとに、思想・表現・コミュニケーションの問題を中心とした現代ロシア文化の特徴を論じる集まりとなりました。ロシア詩人プリゴフによる朗読およびドイツと日本の学者による対談「ロシア文化:東と西の視点」も企画されています。タルトゥー大学(エストニア)のトーロプ教授、NTV-KINO(ロシア)のアルセーニエフ氏、ルール大学のアイメルマッハー教授、ラジオ・リバティの評論家ゲニス氏など魅力的な外国人ゲストの参加を得て、実り多い議論が期待されます。なおシンポジウムの成果は論文集として発行されます。[望月]
◆ 2001年度外国人研究員候補決まる ◆
6月29日の協議員会において、2001年度の長期外国人研究員招聘に関する審議がおこなわれ、正候補3名、副候補2名が決まりました。正候補として選ばれたのは以下の方々です。
今回の応募者は最終的に46名で、選考は例年同様に難航しました。結果的に、研究分野、研究対象地域ともに非常にバランスの取れた選抜となりました。
ボルホヴィチノフ氏はロシア科学アカデミー会員であり、ロシア領アメリカの研究領域で「超弩級」の歴史家と見なされる方です。同氏は1997〜1999年に氏の研究成果の集大成とも言えるような『ロシア領アメリカの歴史:1732〜1867年』と題する3巻本を出版しました。センターはこれまでロシア科学アカデミーのロシア史研究所からは何人かの歴史家を招聘してきましたが、世界史研究所からの招聘は初めてのことです。また、北大では今年度、北ユーラシア北太平洋地域研究センターが発足していますが、それとの関係でも同氏の招聘は非常に有益であると期待されます。
シン氏はセンターがこれまでも深い協力関係を持ってきた中国社会科学院東欧中亜研究所の方です。39歳という若さですが、同研究所の副所長を務め、ロシア、中央アジアの内政・外交・経済等の研究において傑出した評価を受けています。とりわけ、1998年に出版された『過去70年間のソ連指導部の政策決定過程』と題する5巻本は、中国の学界だけでなく、政治指導者たちの間でも高い評価を受けていると聞いています。センターでは、「中央アジアにおける中ロ関係」というテーマで研究する予定です。
パヴリネク氏はチェコ国籍ですが、1990年以降米国で活躍している37歳の新進気鋭の地理学者です。同氏はチェコとスロヴァキアを中心とする中東欧の環境問題の専門家で、とくに環境問題を経済体制転換との関連で扱った業績で広く知られています。センターでは、「中東欧における自動車産業の再編」というテーマの研究をおこなう予定です。センターでは、ロシアの環境問題、中東欧の農業問題などの共同研究が進行中ですが、中東欧地域研究、経済研究、環境研究などの幅広い分野での共同研究が期待されます。
センターでの滞在期間は、3氏ともに、来年6月から再来年3月までの予定です。
なお、本誌前号でもお伝えしましたが、センターでは、来年度滞在されるCOE短期外国人研究員について、次の要領で公募をおこなっています。
滞在期間: | 2001年6月から2002年3月までの間の3ヵ月から5ヵ月の期間 |
応募締切: | 2000年9月30日 |
採用通知: | 2000年12月下旬(最終的には2001年3月) |
応募用紙の必要な方はご連絡下さい。応募要領は、センターのホームページでもご覧になれます。[田畑]
◆ 2000年度鈴川基金奨励研究員決定 ◆
選考の結果次の3名の方々が本年度の鈴川研究生として選ばれました。[大須賀]
氏名 | 所属 | 滞在期間 | ホスト教官 | 研究テーマ |
金 玹英 | 東大・院 博士課程 | 2000.7.5〜 7.15 | 望月哲男 | 20世紀現代ロシア詩;ヨシフ・ブロツ キーを中心とする当時のペテルブルグの 詩人達についての研究 |
後藤正憲 | 阪大・院 博士課程 | 2000.7.10〜 7.29 | 宇山智彦 | 1870年代のロシア文学、民族誌,政治運 動におけるナロードの理解 |
中澤達哉 | 早大・院 博士課程 | 2000.7.10〜 7.23 | 家田修 | 1848年革命直後のスロヴァキア国民形成 の国制史的研究;新絶対主義期のハプス ブルク国制とスロヴァキア国民形成の関 係;クリミア戦争以降の帝政ロシアの政 治原理の援用によるスロヴァキア国民形 成の特性 |
◆ 2000年度文部省科研費プロジェクト ◆
2000年度のセンター教官が代表を務める文部省科研費補助金による研究プロジェクトは次の通りです。[野村]
基盤A
村上隆 「サハリン大陸棚石油・天然ガスの『開発と環境』に関する学際的研究」
林忠行 「東欧・中央ユーラシアの近代とネイション」
田畑伸一郎 「ロシアの地域間の資金循環」
家田修 「旧ソ連東欧地域における農村経済構造の変容」
基盤B
望月哲男 「90年代ロシアにおけるポストモダニズム文芸の総合的研究」
田畑伸一郎 「ロシアの地域間資金循環の分析」
原暉之 「近現代ロシアにおける国家・教会・社会:ロシア正教会と宣教団」
井上紘一 「ピウスツキによる極東先住民研究の全体像を求めて」
松里公孝 「脱共産主義諸国におけるリージョンおよびサブリージョン政治」
◆ 2001年度大学院学生募集要項決まる ◆
前号でお知らせしたように、センター研究部スタッフは北海道大学大学院文学研究科歴史地域文化学専攻のなかのスラブ社会文化論専修という協力講座を構成することになり、本年度からセンターの大学院教育参加が実現しました。このほど2001年度の大学院入試要項が決定されました。修士課程の前期試験日程はつぎのとおりです。
修士課程前期試験 | 出願期間: | 2000年7月21日-8月2日 |
試験期日: | 2000年9月12日(専門試験、共通外国語試験) 2000年9月13日(口述試験およびその他) |
|
合格発表: | 2000年9月22日午後4時 |
スラブ社会文化論専修での試験科目はつぎのとおりです。
共通外国語試験: | 英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、中国語のうち一つを選択(辞書持ち込み不可)。 |
専門試験: | 共通問題(スラブ地域学小論文:スラブ地域学に関して、与えられたテーマにそって小論文を作成する)および選択問題(スラブ地域人文科学分野もしくはスラブ地域社会科学分野の問題)から1題を選択して解答する。 |
口述試験: | 口述試験日の午前中(10:00-12:00)に外国語試験(外国語文献読解の筆記試験)を実施する。外国語は英語、ロシア語のうち共通外国語で選択したのとは異なる外国語を1つ選択する(辞書持ち込み可)。口述試験ではおもに基礎知識、研究計画などについて試問する。 |
なお、修士課程の後期試験が、2001年2月6-7日に前期試験と同じ方法で実施されます。また、修士課程社会人特別選抜試験が2月6日に、博士後期課程試験および博士後期課程社会人特別選抜試験が3月1日に実施されます。なお、詳しい募集要項は北海道大学文学研究科のホームページ(http://www.hokudai.ac.jp/letters/)に掲載されています。[林]
◆ 2000年度第1回北海道スラブ研究会の開催 ◆
今年度第1回目の北海道スラブ研究会が4月27日、センター大会議室において開催され、総会と研究報告がおこなわれました。
1)総会
議題1として1999年度活動報告と決算、議題2として2000年度役員選出と予算が審議され、原案通り承認されました。なお改選ないし新任の役員は以下の通りです。
世話役代表: | 村上隆(センター、新任) |
世話役: | 大西郁夫(北大文学部、留任)、佐々木洋(札幌学院大、新任)、杉浦秀一(北大言語文化部、留任)、田口晃(北大法学部、留任)、徳永彰作(札幌大、留任)、所伸一(北大教育学部、留任)、匹田剛(小樽商大、留任)、吉野悦雄(北大経済学部、留任) |
会計係: | 松田潤(札幌大、留任) |
会計監査: | 吉田文和(北大経済学部、留任) |
連絡係: | 家田修(センター、新任) |
2) 研究報告
センターの家田が昨年度における長期海外出張の帰国報告を兼ねて、「聖イシュトヴァーン王冠の復権:最近のハンガリー事情」と題する講演をおこないました。
その後は恒例のビアパーティが開催され、会員の親睦がはかられました。なお北海道スラブ研究会に関する情報がセンターのホームページに掲載されるようになりましたので、ご利用ください。また、この会についてご質問、ご提案などがありましたら、家田までご連絡ください。[家田]
◆ 研究会活動 ◆
ニュース81号以降の北海道スラブ研究会およびセンター研究会の活動は以下の通りです。[大須賀]
3月 23日 | 宇山智彦(センター)「タタール・バシキール・チュヴァシ民族史の理論と言説:現地調査の概略」(昼食懇談会) |
4月 14日 | H.バーチェフ(ブルガリア科学アカデミー経済研)“Bulgarian Experience in Transformation of Farm Structure”(センター・セミナー) |
4月 27日 | 家田修(センター)「聖イシュトヴァーン王冠の復権:最近のハンガリー事情」(北海道スラブ研究会総会) |
5月 15日 | A.M.ハザーノフ(ウィスコンシン-マディソン大/米国) “Is Democracy Retreating in Post-Communist Countries?: The Phenomenon of Post-Totalitarian Society”(センター・セミナー) |
5月 16日 | A.フリス(ヤゲロ大/ポーランド) “The Distinctiveness of Eastern Europe” (センター・セミナー) |
5月 24日 | J.ノヴィク(カムチャッカ教育大/ロシア) “The Japanese: Metamorphoses of Their Ethnic Identity”(昼食懇談会) |
6月 5日 | V.クライシィッヒ(経済・社会研究研/ドイツ) “Democratization, Economic and Social Change in Russia: One Step Forward or Back”(センター・セミナー) |
セ ン タ ー 第 15 回 公 開 講 座
新千年紀を迎えたユーラシア、体制転換10年
ノートをとりながら熱心に聴講する参加者 |
スラブ研究センターの公開講座も今年で15回目という区切りのよい回数になりました。5月8日(月)から5月29日(月)までの毎週、月曜日と木曜日に、全7回にわたって開かれました。
新千年紀は、社会主義体制が崩壊してからおよそ10年にあたります。この10年間にそれぞれの国が体制移行に向けてさまざまな道を歩みましたが、スラブ・ユーラシア地域に複合的状況が表出し、変革への道程は決して平坦ではありません。新千年期という節目の時期にふさわしいテーマということで、今回の公開講座ではこの10年間に移行期にある国がどのような試練を歩んできたか、また今後の展望に焦点を当てて多面的に分析してみることにしました。
体制移行の牽引国であるべきロシア連邦は「略奪資本主義国家」の相を呈し、健全な国家が再建できず、大統領の指導力に国民は理解と信頼を失いかけていました。国威さえも失いかけていた今年の3月26日、エリツィン前大統領の後継者としてプーチン氏が選出されました。プーチン氏は今回の大統領選を思想の戦いでなく、世代交代の戦いと位置付け、そして過去の政治家から新世代の政治家への選挙であり、改革の夢から改革の実現へと国民に訴えました。公開講座の参加者の多くがプーチン政権誕生によって今後経済的にも安定した国になるか関心を示していたようです。同じように旧ソ連邦の中枢的な共和国ウクライナのクチマ政権の予想外の強さにも大変な関心がよせられました。本公開講座のもう一つの特徴は「ホットな地域」を重視したことです。それは、ユーゴスラヴィアの内戦やロシアのチェチェン戦争、また中央アジアでの「イスラム原理主義」の動向です。これらの問題についてはマスコミを賑わせてきましたから、公開講座参加者にとってもお馴染みの地域でもあったようです。しかし、ドラマチックになりがちなマスコミ情報は、このような争いの原因は何なのか、その歴史的、政治的、経済的背景はどうなっているのかといった本質的な問題には触れてなく、それを補ったのが本公開講座であったといえるでしょう。
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第6回目岩下明裕氏の講義のもよう |
センターの4人の専任研究員と外部から招聘した3人の専門家によって公開講座が組まれ、これに55名の市民の方々が参加されました。参加された方々の年齢層には偏りが無く、数名を除く殆どの方が全講義に参加し、熱心に聴講されました。また参加者との質疑応答を通しフィードバックがあり、講演者の励みになったと思われます。[皆川]