◆ 中欧と日本との間の新対話 ◆

木村 汎(国際日本文化研究センター)

今年7月プラハでの会議風景

 中欧諸国と日本人の知的対話が、小規模ながらつづいている。
 ことの発端は、1996年9月中旬にブダペストで開催のハンガリー建国1000周年を祝う大会に日本人が多数参加したことだった。
 この大会の一つのプログラムとして、「中欧と日本との間の新対話」と題するシンポジウムが、9月16〜18日の2日間にわたって開催された。主としてハンガリー科学アカデミー所属の社会紛争研究所(ブダペスト)と国際日本文化研究センター(以下、「日文研」と略称)の所員が参加した。ブダペスト在住の学者の山路征典氏の尽力の賜だった。日本からの参加者は、小野芳彦、黒須里美、白幡洋三郎、木村汎(以上、「日文研」)、田中義具、山路征典、盛田常夫(当時ブタペスト在住)、伊東孝之、西村可明、岡正人氏などだった。大会全体には、山村理人、大津定美、石川晃弘などの姿もみえた。スポンサーは、国際交流基金で、ウィーンから香西・中欧事務所長が駆けつけ、素晴らしい英語でスピーチをした。田中義具駐ハンガリー日本大使は、まる二日間、会場の最前列に陣取り、熱心に参加・聴講され、大会への日本人参加者全員を大使公邸の夕食晩餐会へ招待して下さった。
 2日間のシンポジウムの内容については、省略する。全ペーパー、討論が229頁の堂々たる書物となって出版されている [A New Dialogue Between Central Europe and Japan (Budapest: Institute for Social Conflict Research, HAS, 1997)]。 
 参加者一同は、中欧と日本との間の知的対話の機会が少ないことに改めて驚かされた。とくに、このような会合が実に有意義であることを認められたのは、田中義具大使(その後、軍縮大使、現在、「ラジオ・プレス」社長)である。同大使は、少なくとも隔年にこのような会合を開催、続行すべきと主張され、資金調達のために国際交流基金に足繁く通ってくださっている。
 1998年12月、ポーランドのクラコウ大学を会場にして、第二回「中欧と日本との間の新対話」が開催された。クラコウ大学ばかりでなく、ポーランドの研究者、そしてハンガリーから第一回の会合の参加者3名も加わった。主催者は、クラコウ大学のG・スコンプスカヤ(Grazynea Skapska)教授(社会学)だった。日本側からは、田中義具、伊東孝之、盛田常夫、木村汎のコア・メンバーにプラスして、ポーランド問題に詳しい松里公孝、小森田秋夫、鈴木輝二、佐藤経明、鈴木康雄氏(自治医大)、ポーランド側の要請で第1回会合の参加者である岡正人氏(横浜国大)も参加した。この会合の内容も、近く出版されるので、割愛する。

プラハのホテルにて 向かって右から2人目が木村氏

 第3回会合は、2年後の今年7月26〜27日にプラハ大学で開催された。主催者となったのは、ヤン・シーコラ(カレル大学日本学研究室主任)。電子メールで連絡してくる同教授の日本文が98%正しいのには、驚いた。『漢・チェコ辞典』を作製したばかりの40歳前後の、チェコ随一の日本研究者である。田中大使をはじめ、日本側参加者は、バスルーム共有のカレル大学のゲストハウスに泊まり、学生に戻った気持で、2日間熱心に討論した。日本側からは、田中、伊東、盛田、木村、鈴木の常連メンバーの他、林忠行、家田修、月村太郎氏が参加した。チェコ側は3人の日本研究者の他は、社会学、経済学、政治学、国際関係論の専攻者だった。同会議に提出されたペーパーも、近く出版される。
 第4回目の会合は、2年後にウィーンあるいはザグレブのいずれかで開催したいと考え、現在、カウンターパート候補を物色中。というのも、この会合を続行できるか否かは、中欧で良いカンターパートが見つかるか否かに懸かっているからである。カウンターパートを引きうけると、大変な労力を覚悟せねばならぬ。中欧側は、(1)自らが国際交流基金に応募する。(2)2日間の会合の準備、開催を一切責任をもって遂行する。(3)年内にその成果を書物の形で刊行する。これら3つの義務を遂行せねばならない。他方、中欧当番機関が国際交流基金から受ける交付金は、なんと200万円(今年のプラハ会議の場合)にすぎない。その中から、日本人参加者8〜10名のディスカウント往復航空券、宿泊費、食費、懇親会、成果刊行費を支出せねばならない。当然中欧カウンターパート自身の出費は、かさむ。さらに、今年の場合、シーコラ氏は、プラハ空港とゲストハウス間の送迎を一日3往復したうえに、林氏と私をカルロビバリ(往復5時間)まで案内してくれる接待ぶり。これは、並大抵でできることではない。このような個人的好意と献身的な行為に支えられているところが、「中欧と日本との間の新対話」の強みであり、弱みである。
センターニュースNo83 リスト