サハリン北東部大陸棚の石油・ガス開発と環境W

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 次に、実際に汚染した時の管理局についてですが、環境省の下に国家汚染管理局という政府機関があります。実際には、管理局は5部局あり、石油だけではなく、核の汚染とか、化学物資の汚染だとかを扱う部局があるわけです。この局には油汚染管理部があり、ここが油汚染の実際の管理機関になっています。当管理局のもとに管理センターというのがありまして、この本部はホルテンというオスロからほど遠くない海岸にあります。このセンターが事故が起きた時の総司令室になります。このセンターの傘下に34カ所の油汚染総合緊急防災区域というのが指定されていまして、資機材がここに格納されており、地方自治体が管理しています。ノルウェーには400以上の地方自治体がありますけれども、昨年まではこの防災区域が51ありましたが、今年から34になり、かなり合理化されました。この他、民間防災システムというのがありまして、有名なNOFOと呼ばれている組織です。この組織はオペレーターによってできた防災組織であり、民間のオペレーターは各自で防除組織を持っていません。というのは非常に条件が厳しいので、各々のオペレーターがそれを持っていますとコスト高になるということで、オペレーターが共同で、お互い資金をプールして防災組織を作りました。それをNOFOと呼ぶわけです。ノルウェーにはその資機材デポが5カ所あります。そのほか油の配給会社、製油所、油関連会社がそれぞれ、防災の資機材を持っておりますが、それほど規模の大きいものではないということです。ということで政府と民間が共同で危機管理を行っているのです。

 一番の重要な点は危機管理法によりますと、油流出情報はまず事故の大小に関わらずこの管理センターに集まり、そこで防除プロセスが決定されます。どの程度の規模で、どれくらいの人員で、どういうシステムを使って除去するかということが決定されるわけです。管理センターでの決定には多い時で36人ぐらいの人員が必要になりますが、比較的小規模の場合は、15人になったり、または10人になったり、本当に小さい時は3人、または1人で、つまり司令官1人で行うこともあります。1人の場合は、ほとんど自治体やその他に任せている時なのですけれど、全ての情報が管理センターに集まるということです。ここで迅速に防災、防除作戦を決めるということです。資機材の動員のプロセスですが、まず24時間以内に国および民間が持っている全ての資機材の25%を動員すると、どのぐらいの流出油、グリース上になった油を回収できるかを試算し、それでも全流出油を回収できない場合、次の24時間内に残る75%の資機材を動員し回収するわけです。とにかく72時間には、油が沿岸につかないようにきちっと防除マニュアルができております。石油監督局は事故が起きた時は何もしませんが、事故が起こった場合の防災計画をオペレーター、NOFOのメンバーに課すわけです。そういう時のために、色々注文をつけております。指揮系統が乱れないように、かなり徹底させておりますし、昨年この危機管理法が改正されまして、海軍と国境警備隊が動員できるようになりました。それも管理センターの指図ひとつですぐに動くということです。センターの司令官らは専門家です。大臣が指揮官になっているような国ではございません。専門家がすぐそこに指揮を出すということになっております。

 重要なのは民間と政府機関がうまく動員されるようにできていることです。石油監督局は自己管理システムを持っていますが、油流出時最終的にはオペレーターに全部責任があるわけですから、NOFOに対して厳しい条件をつけ、民間の事故管理システムでまず処理できるようにという注文をつけて、監督しているわけです。ですから二重構造になっているのです。その外側に国のシステムがあるということです。管理センターは情報収集のため24時間オープンです。NOFOにも救難センターというのがあって、24時間監視体制にあり、飛行機も持っております、ヘリコプターも持っております。油回収にすぐに動員できる人員は3000人絶えずおります。大小のオイルフェンスの量が111キロです。60海里分になりますか。それから300の油回収装置がありまして、油回収船も結構あります。24時間ずつのプロセスが組まれていますが、72時間以上になりますと、結局油が海岸に押し寄せるということになり、そうすると地方自治体が動員されるわけなのです。その前に回収してしまおうということです。といいますのは、油1トン回収するのに3000ドルから4000ドルかかるわけです。これが海上での時ですね。油が海岸線に寄ると、地形にもよりますが、1トン回収するのに7000ドルから4万ドルかかると言われますので、この費用のコスト負担について、かなり民間のオペレーターも良く知っておりますので、できるだけ自主的に努力しようという態度がこのシステムに現れているということになるかと思います。ちなみに、これは最近の統計ですが、自然な油の流出量が年間1,519tあります。自然と言ってもある程度事故があるのですけど、回数にして昨年284回です。ところが1回当たり1t以上流出したのはこのうち5%に満たないわけです。1日に300万バレル生産しております。1日に300万バレル生産していて、年間総油流出量が1,519tというのは非常に少ない数字です。ですから、1回ごとの流出が1tに満たないというは、いかに防災計画が良く整備されているかということが言えると思います。イギリスや他の国との大きな違いは、ノルウェーでは民間の防災会社に委託していないということです。全部このNOFOという組織がやっているということです。これは民間といえば民間なのですけども、オペレーター自体が運営している、委託会社ではないということに大きな違いがあろうかと思います。

 ロシアの危機管理システムですが、ロシアは、意外と言っては失礼ですが、法律はソ連邦の時代からそれなりにしっかりしています。現在では環境保護基本法というのがありまして、自然環境保護について規定していますが、1992年に制定されて、今改定案が出ております。それから環境関連連邦法が幾つかあるのです。昨年1月、生産分与法修正法が制定され、そこにはオペレーターの義務が書かれてあります。その他、非常事態法というのがございまして、関連法や基本法に関係した決定とか省令とか規則などがたくさんあるのです。法律はたくさんあるのですが、お互いに矛盾していて整合性に欠けております。ノルウェーとロシアとの環境保全協定で、ロシア側からフィージビリティ・スタディーズの研究結果が出てきましたが、1つの問題はやはり法制度がお互いに矛盾していて、これを何とか一本にしなければならないというのがノルウェーの重要なコメントでした。これに関与した省庁は10幾つございます。結氷時に流出油がどうなるか、どういう方法でそれを回収したらよいか、などの問題についてもその報告書は触れています。

 ロシアのことについて申し上げますと、まず環境行政機構としては天然資源省と連邦国家環境保護委員会がありますが、この組織は先ほど言いましたノルウェーの石油監督局に当たるわけです。ライセンシーになるまでのプロセスで環境アセスメントをしなければならないことになっています。オペレーターの環境保全計画の監督とか、管理とか、さらにエコロジー基金の管理なども環境委員会が行っています。環境汚染防除組織がありまして、油が流出するまでの監督は国家環境委員会が行っています。これはサハリンの場合も同じですが、環境委員会が石油生産開始後常時、ほとんど24時間体制で監視しています。この委員会にはデーターベースがありまして、油の種類、所有者、場所、使用状態等々に関するデーターが盛り込まれています。しかし油流出事故が起きますと、監督機関は連邦運輸省、海運局になります。海運局の海洋汚染防除救難管理部という組織です。この組織はソ連邦時代からありまして、実際に防除作戦行動をとるのです。この組織は連邦政府に属しており、非常に大きな地域をカバーしています。傘下に地方管理局がありまして、サハリンの場合は「サフバス」と呼ばれています。この組織に救難センターがありまして、油が流出した場合、そこに情報が伝達され、除去作業の組織運営が行われます。もう一つ、非常事態省という組織がありまして、大きな油流出の場合は非常事態省があたります。しかしそのボーダーラインというのが今ひとつ判りません。それで実はロシア側の報告書にも書いてありますが、この非常事態省と運輸省管理局との役割分担が明確ではないということがありまして、昨年、サハリンから来られました国家環境委員会のコステンコ部長の言葉によりますと、おそらく管理局の今の権限が非常事態省に移管されるのではないかということです。そうしませんと指揮系統、情報収集等の点で、非常に乱れるということが予測されます。ですからまず法律が体系的、有機的に作動しないということ、さらに管理局の権限の問題がございます。大きな欠点は、過去に流出事故があったと思いますが、私どもはその結果が全く判りません。それらを綿密に研究して初めて法改正が可能になるのですが、おそらく彼らもそれを研究していないのではないかと思います。事故例を研究して、法改正が初めて出来るということなのです。旧ソ連で原油流出がなかったということはないと思います。絶対にあったと思います。それが私たちにとって大きな問題です。しかしご承知の通り、非常事態省というのはチェルノブイリ事故以後に出来た省で、それ以降、さまざまな国家非常事態になるような事件がございました。その都度、何らかの形で解決しているのです。非常事態省の大臣が昨年下院選挙の時、「統一」と言う新政党の党首になって非常に人気が出ましたが、彼の実力がその背景にあったと思われます。ですから、必ずしもこの省を軽視してはいけません。この省は、軍隊その他を強力に動員できる権限を持っているわけですから、防除作業をやってみると意外と出来るかもしれない、あるいは出来ないかもしれないと言う不安が今あるということです。

司会: どうもありがとうございました。それでは続いて吉田さんにお話をしていただいて、それから次に私(村上)が簡単に報告します。それで北川先生が一番この分野では造詣が深いわけですので、まとめた形でコメント方々、報告して頂くという形にしたい思います。それではよろしくお願いします。


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