地域研究コンソーシアム次世代ワークショップ「ユーラシアにおける境界と環境・社会―学際的対話による包括的な「境界」知の獲得」開催される
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2015年2月7日(土)、奈良女子大学にて、地域研究コンソーシアム次世代ワークショップ「ユーラシアにおける境界と環境・社会―学際的対話による包括的な「境界」知の獲得」が開催された(UBRJは共催)。北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターUBRJ担当助教の地田が企画責任者となり、ユーラシア各地の境界と環境と社会の問題に取り組む8名の若手研究者が集い(1名欠席)、「境界」「環境」「社会」および境界の通時的な「変化」をキーワードに報告をし、各報告者が扱う事例のユーラシアというスケールでの一般化の可能性と各フィールドの位相的関係について議論を行った。東北アジア、東南アジア、南アジア、中央アジア、モンゴル、ウクライナ・ベラルーシというユーラシア内部の多様な地域について、自然地理学、人文地理学、文化人類学、土木工学、国際関係論、国際法学、歴史学という文理の壁を超えた多様なディシプリンを有する研究者による報告と議論はエキサイティングで知的刺激に満ちたものだった(なお、欠席した1名は水文学の専門家)。また、ワークショップのアドヴァイザーとして柳澤雅之先生(京都大学地域研究統合情報センター)にもご参加いただき、鋭い質問をいくつも投げかけていただいた。
ワークショップの成果であるが、ユーラシア各地の境界・環境・社会の問題をプロセスとして通時的な変化を捉え、ボトムアップ型で境界の場所のロジックに着目しつつ、同時に、異なるスケールからこのような変化の意味を捉える。このような方法論上の共通見解がまず得られたと言える。また、ナショナルなレベルでの政治的な大きな変化が境域社会やそこでの環境、あるいは境界そのものに対しても影響をおよぼす場合もあれば、災害などの環境変化が境界の意味合いに影響をおよぼす場合、地形・気候帯などの境界と行政境界とのずれがなんらかの問題や影響を引き起こす場合など、複数のアプローチを複合する形でこの問題に取り組む必要があるという点についても参加者で共有できた。その中で、冷戦の終焉やソ連の崩壊、中国の改革開放、西部大開発、バングラデシュ独立といった大きな政治的なうねりがユーラシア各地での境界の透過性(permiability)を高め、人・モノの移動が活発になると同時に、そのことが境域(境界を跨いだ地域)の環境・社会に新たな影響・問題を引き起こしていること、または、沙漠化や洪水、原子力発電所事故といった災害が、他の社会的・政治的文脈と相まって、むしろ境界の透過性を弱める方向に働くこともあるということが分かった。
全体として、各人の個別研究の精度を高めつつ、地域の壁もディシプリンの壁も取っ払った形で「境界」を軸に議論を展開するということは、我が国の境界研究そのものへの寄与というだけでなく、地域・分野の壁を取り払いつつ「地域」について語り得るという点で、我が国の地域研究に及ぼし得るインパクトを示したという点でも有意義だったと考えている。本ワークショップはあくまで「キックオフ」であり、今回のワークショップで得られた知見・理解をさらに発展させるべく、若手研究者のイニシアチブで科研プロジェクトなり雑誌の特集組織なりで共同研究を継続してゆきたいと考えている。
本ワークショップを採択していただいた地域研究コンソーシアムにまず衷心よりの謝意を表すると共に、ワークショップ実施にあたりアドバイスをいただいた多くの先生方、報告者・来場者の皆様、そして、事務を司っていただいた京大地域研の二宮さち子さんに感謝したい。ありがとうございました。