2015年8月9日(日)、九州大学箱崎キャンパス21世紀プラザIにて、本年4月に設立された九州大学アジア・太平洋未来研究センター(CAFS)と北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター境界研究ユニット(UBRJ)の主催による第3回アジア・太平洋ボーダースタディーズセミナーが開催された。セミナータイトルは「Lessons from European and Central Asian borders for Asia-Pacific Future Studies」と題し、前半はUBRJとの結びつきが深い東フィンランド大学カレリア研究所のイルカ・リッカネン教授が"EU Neighborhood Policies and Visions of the Post-Cold War International Order"、ジェームズ・スコット教授が"The Renaissance of Geopolitical Realism: Repercussions for the Reconceptualization of European Neighborhood"と題する報告をそれぞれ行った。昨年のウクライナ危機以降、ギリシャの財政破綻問題やイギリスのEU離脱問題など、これまでのEUの一体性や結束を揺るがす出来事が立て続けに起こる中での、EUの東方政策のあり方の変化や、より「リアリズム」に近い地政学的思考の復興といった問題についての報告であった。後半は、スラブ・ユーラシア研究センターのUBRJ担当助教である地田徹朗が組織した越境環境問題であるアラル海問題についてのセッションである。アラル海救済運動をペレストロイカの時期から先導してきたニコライ・アラディン教授(ロシア科学アカデミー動物学研究所)による"The Partial Restoration of the Aral Sea and the Biological, Socio-Economic and Health Conditions in the Region"という報告と、中央アジア地域の水資源・エネルギー問題をめぐる国際関係が専門のエカチェリーナ・ボリソヴァさん(ロシア科学アカデミー東洋学研究所)による"The Trans-boundary Water Problems in the Aral Sea Basin"という報告の二本立てだった。アラル海救済をめぐる地域・国際協力のあり方とアラル海流域の上流国・下流国間の水資源と電力をめぐる争いの双方の側面について取り上げつつ、今後の協力進展の展望について考えるセッションとなった。セッション組織者としては、中央アジアそして環境問題というボーダースタディーズではマージナルな地域・分野であったにもかかわらず、参加者に関心をもっていただけたことが率直に嬉しかった。セミナーには夏休みの日曜日、しかもうだるような猛暑であるにもかかわらず、18名の参加があった。また、暑い中セミナーのロジ面を担当していただいた九大アジア・太平洋未来研究センターの皆さまに心から感謝を申し上げたい。
(文責:地田 徹朗)