Eurasia Unit for Border Research (Japan)

Home > What's New Archives > 国際地理学連合(IGU)モスクワ大会参加記

What's New Archives

Back to List

2015.10.01

国際地理学連合(IGU)モスクワ大会参加記

国際地理学連合(IGU)モスクワ大会参加記
DSC_0051.JPG
 今年の国際地理学大会(IGU)は、8月17日から21日までロシア・モスクワのモスクワ国立大学にて開催された。モスクワでの開催は、現在の会長であるロシアの科学アカデミーのウラジミール・コロソフ会長の意向を反映している。今年の政治地理学部会は、エレーナ・デルアグネス先生が築いた基盤をバージニア・ママドー氏や大阪市立大学の山崎氏などの尽力によりさらに拡大しその存在感を露わにした。

 CPG主催のパネル「ユーラシアの境界化:政治、権力、政治地理学」は、スラブ・ユーラシア研究センターの岩下先生及びマンチェスター大学のポール・リチャードソン氏によって組織された。各国のVIPが参加した今年のIGUは、セキュリティも厳しかったためパネルのスタートがやや遅れたのだが、その後無事始まり、岩下氏の司会の下、最初の報告者であり今年のIGUのトラベルグラント受賞者でもあるディピカ・サラスワット氏からロシアとイランの政治地理学的な利害の収斂に関する報告があった。その後、東フィンランド大学のジェイムズ・スコット氏によるEUの近隣認識とユッシー・ライネ氏によるフィンランド・ロシア関係の報告があり、EUに注目した報告がなされた。本セッションで興味深かったのは、地域化されたある特定の現象や出来事が、実はより大きな政治地理学的ナラティブと繋がっているそのプロセスに注目した点である。

 二つ目のセッションでは、より小規模の政治的プロセスに注目をした報告がされた。アンナ・カッサリア氏とフレドリック・ドュラン氏は、下から協力に注目し、また、フェドル・ポポーブ氏は、併合された空間に関する理論的検討を行った。また、アノン・メドジニ氏は、地図製作による権力の表れについて検討した。第3セッションでは、ヌレティン・オズゲン氏によるクルド国の成立に関する報告がされたのち、エドワード・ボイル氏による日本の「固有の領土」を用いた領土問題へのアプローチについて検討した。

 この三つのセッションは、大会全体で議論された他の問題ともうまく整合した。火曜日に行われた山崎氏の講演では、ミクロの次元における主権の問題について提起し、その上で沖縄にある米軍基地問題に触れながら、国境と領土の問題をより広域な政治地理学的な観点から検討した。ガットナー氏の地図策定の重要性やマーフィー氏による政治や外交分野における地理学の重要性などの基調講演も大変興味深かった。会議初日のセキュリティ体制を見ても、またロシアの防衛大臣であるショイグ氏が現在ロシアの地理学協会の会長であることを鑑みても、地理学と権力の関係はいまだ健在であるといえるだろう。最後に、会議の会場となった建物の向かい側には、スターリン時代に立てられた立派な大学の建物があり、地理学とはいまだ強力な政治的試みであることを示した。

(文責: ボイル・エドワード、九州大学アジア太平洋未来研究センター)

DSC_0055.JPGDSC_0053.JPG