2015年12月18日(金)、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター公開講演会が行われ、UBRJユニットリーダーの岩下明裕教授が「地域を変えるボーダーツーリズム 対馬・サハリン・オホーツク」と題する講演を行いました。日本学術振興会実社会対応プログラム「国境観光:地域を創るボーダースタディーズ」をベースに、UBRJが重点的に取り組んできた国境観光(ボーダーツーリズム)のこれまでの取り組みについての講演でした。岩下ユニットリーダーが花松泰倫(九州大学持続可能な社会のための決断科学センター)、島田龍(九州経済調査協会)、高田喜博(北海道国際交流・協力総合センター)、浜桜子(エムオーツーリストCIS・ロシアセンター)らとの協働の下で築いてきた実際の国境観光ツアーは、日本の国境地域を国家のデッドロックとして捉えるのではなく、国境の先へのゲートウェイとして捉え直すことを、国境自治体と密接に協力しつつ実地で行うことを目的としてきました。このような国境概念のパラダイムシフトを促す国境観光は、日本のマスメディアから大きな反響を呼び、2013年12月に行われた「対馬・釜山「国境観光」モニターツアー」から2015年10月の「道東ボーダーツーリズム「オホーツク・ゲートウエイ」」に至るまで新聞やテレビ媒体で取り上げられております。また、『現代用語の基礎知識2016』の「時代・流行」コーナーでも用語解説がなされました。今回の公開講演会では、一般社会の中で「ボーダーツーリズム」が概念としても実態としても定着してきたそのプロセスを総括するものとなりました。岩下は、日本における国境観光のあり方を「クロス(異なる空間を移動し連関・比較する)」、「トランス(複数空間を連結、ルートの多角化)」、「境界地域(ボーダーランズ)」という三つの概念からまとめております。稚内=サハリン航路の廃止というニュースは非常に残念なものではありますが、八重山・台湾ツアーや新潟発の中ロ国境ツアーなど新たな企画も走っております。今後の国境観光のさらなる発展と、知的刺激が豊かなアカデミック・ツアーとしての国境観光ツアーへの参加の呼びかけがなされ、講演会は締めくくられました。
本セミナーは、師走の金曜日の晩という時間帯にもかかわらず39名の方にご参加いただきました。学部学生が多く参加し、しかも鋭い質問を投げかけるなど、ボーダースタディーズの裾野が確実に広がっていることを印象付ける場となりました。公開講演会にご参加いただきました皆様、ありがとうございました。
(文責:地田 徹朗)