BRIT XV ドイツ・ハンブルグとデンマーク・セナボーで開催
2016年5月17日(火)~20日(土)、隔年開催のボーダースタディーズの国際会議Border Regions in Transition (BRIT)第15回大会がドイツのハンブルグ(ハーフェンシティ大学)、デンマークのセナボー(南デンマーク大学)にて開催されました。UBRJからは、岩下明裕(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター/UBRJユニットリーダー)、ディビッド・ウルフ(同)、地田徹朗(同)が参加。また、日本からは花松泰倫(九州大学)、岩田拓夫(立命館大学)も参加しています。今回のBRITは、"Cities, States and Borders: From the Local to the Global"と題し、開催地がドイツだったこともあり、EU圏内の越境都市協力や都市・地域計画の専門家が目立ちました。中でも、ツインシティ―の問題に大きな焦点が当てられていたようです。
初日、岩下明裕が中心となり組織した"Perspectives on Japanese Cities and Border Politics"というセッションでは、岩下がイントロダクションと稚内=サハリンとオホーツク海岸北上の国境観光、ウルフが「東洋のパリ」と称されたロシア(ヨーロッパ)文化のフロンティアとしてのハルビンの都市建設、花松は対馬=釜山の国境観光と韓国人観光客と地元住民の間のメンタルバリアーの変化について論じました。ウルフ報告では、20世紀初頭のハルビンが多文化・多民族の街として機能し、当時の景観の残滓が今なお帝国の記憶としての心象風景を成し、ロシア人観光客を呼び込んでいると説明がなされました。花松報告では、韓国人にとっての対馬は身近な異文化経験(花松の言葉を借りれば"expected unfamiliarity"経験)の場であるのに対し、日本人にとっては未だに国境のデッドロックというイメージしかないという、国境観光のあり方の対比が示されました。
二日目に地田が登板し、アラル海災害とスケールの問題について、多様な地理的スケールを代表するアクターが複雑な影響・支援・対立関係にあり、スケール間の政治が結局はアラル海問題の解決を妨げてきたと論じました。同時に、異なる(あるいは同等の)スケール間のアクターを束ねるようなネットワークの構築がペレストロイカの時代にみられたようにより有効だったと指摘しました。
トニー・パヤン(ライス大学、アメリカ)、ベアトリッヒ・ヘゼルスバーガ―(ウィーン大学)、エマニュエル・ブルネト=ジェイリー(ヴィクトリア大学、カナダ)らのキーノートは学問的刺激に満ち満ちていました。特に、パヤンによる講義は、国家機関による伝統的な国家中心的なガバナンス、民間企業によるネットワーク&市場型ガバナンス、国境地域住民によるアナーキックなガバナンス(プラス、ガバナンスの言葉で語りえない組織犯罪)、このような複数の類型のガバナンスが実態として交錯する場として米墨国境地域を描き、この地域に限らず、ボーダーをめぐるヒエラルキーやガバナンスを考える上での重要な視座と材料を提供してくれました。
三日目のハンブルグからセナボーまでの国境越えエクスカーションを含め、国境を跨いだ都市間の関係、越境現象と地域住民(コミュニティ)との関係、越境するフロー・物流の問題、これらを総合的に計画してゆくということの問題など様々なことを考えさせられました。組織運営もスムーズで素晴らしい会議だったと思います。次回のBRIT XVIは、アフリカ大陸に初上陸し、ナイジェリア南西部にあるイバダン大学が主催。ナイジェリア=ベナン国境のエクスカーションが計画中とのことです。
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2016.05.20