2016年6月18日に中京大学において公開研究会「くにざかい・地域・ツーリズム」が開催されました。本研究会は、中京大学社会科学研究所「日本の国境警備論」研究プロジェクトと北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターが主催し、NPO法人国境地域研究センター 、九州大学アジア太平洋未来研究センター、境界地域研究ネットワークJAPAN の共催、協力のもとで行われ、およそ30名の方々が参加されました。
まず初めに、田中輝美氏(ローカルジャーナリスト)が基調報告を行いました。山陰中央新報記者時代に竹島周辺での漁業に関する日韓での取材をされたご経験から(後に、その取材内容について、琉球新報・山陰中央新報著『環りの海:竹島と尖閣 国境地域からの問い』(岩波書店、2015年)を出版し、2013年度新聞協会賞を受賞している)、領土問題を国境地域社会のローカルな視点から見る必要性について議論されました。さらに、ご出身の島根県で地域振興のサポートに関わられる中で提唱されている「風の人」(土着の人や移住定住者ではなく、観光客など自由に出入りする人々)というコンセプトのもとで、ヨソモノが地域に関わる多様なあり方についても示され、そのひとつの形として国境観光(ボーダーツーリズム)の重要性を説かれました。
次に、「ボーダーを使う:地域振興とツーリズムから」と題したパネルディスカッションにおいて、近年注目されている国境観光(ボーダーツーリズム)の展開と課題、国境地域にとっての意義について議論が行われました。まず司会の花松(九州大学)がボーダーツーリズム論の理論的背景や目的から見た類型などについて概説を行いました。その後、高田喜博氏(北海道国際交流・協力総合センター)から昨年行われた稚内サハリンモニターツアーと北海道オホーツク沿岸を横断する国境を越えないボーダーツアーについて、山上博信氏(名古屋こども専門学校)からは本年10月に予定されている小笠原ボーダーツアーとパラオやサイパンとの繋がりについて、さらにユーラシア大陸の旅行手配を手掛ける濱桜子氏(エム・オー・ツーリスト)から本年9月に行われる予定の中露国境ボーダーツアーについて、それぞれ紹介がありました。その後、本年6月の八重山台湾モニターツアーに参加された田中氏を交え、ボーダーツーリズムが旅行者にとってどのような魅力があるのか、またボーダーツーリズムの発展が国境地域にいかなる影響があるのか、特にローカルな視点からボーダーツーリズムが持つ意味について活発な議論が行われ、ボーダーツーリズムの更なる可能性が示されました。
今年度は、すでに終了した八重山台湾や、パネリストが紹介した中露国境や小笠原のほかに、対馬釜山、サハリン北緯50度線をめぐるツアーも予定されており、今後の更なる発展が期待されています。
(文責:花松 泰倫/九州大学持続可能な社会のための決断科学センター講師)