第4回ボーダースタディーズ東京部会開催される
去る7月2日、東京・御茶の水にある中央大学駿河台記念館において、第4回ボーダースタディーズ東京部会が開催されました。土曜の午後、しかも30度をゆうに超す猛暑の中、40名以上の参加者がありました。欧米、アジア、中東の研究者、ボーダースタディーズに興味・関心のある一般の方も参加されました。そして何よりも、この東京部会の特徴としては、ボーダースタディーズを学んでいる学部学生の参加が常に多いことであります。今回も中央学院大学、創価大学、中央大学、上智大学、日本大学の学生たちが多数参加してくれました。会の冒頭、東京部会の研究幹事である川久保文紀(中央学院大学)が、日本におけるボーダースタディーズの研究上の制度的拠点が全国に広がっている現状と東京部会の役割について述べた後、池直美講師(北海道大学)からAssociation for Borderlands Studiesの日本部会設立の経緯と国際学会との協働関係について説明が行われました。
最初に、境界研究ユニット代表の岩下明裕教授(北海道大学)より「ボーダースタディーズの最前線」と題した基調講演がありました。新著である『入門 国境学―領土・主権・イデオロギー』(中公新書)の執筆目的と、ボーダースタディーズの基本的概念および方法論的特色に触れながら、この著作の全体的な概略が示されました。学生たちにとっては、自分たちが読んでいるテキストの著者に直接話しをうかがえるという貴重な体験になり、真剣なまなざしでノートをとっている姿が印象的でした。次に、前田幸男准教授(創価大学)が「国際社会の誕生とその空洞化:ミシェル・フーコーの講義録の政治地理学的再構成の試み」と題した研究報告を行いました。前田准教授は、ミシェル・フーコーの統治性概念に依拠しながら、現代においては、国家の三要素のである主権、領土、人民の三要素間にズレが生じてきており、とりわけ空戦や9・11テロ以後の「リベラルな」戦争の遂行においては、統治する主体と統治される客体の伝統的な関係が揺らいでいると論じました。そして、主権と聖性に基づき、政治と宗教の関係に根本的再考を迫る非西洋的・非領土的パラダイムの台頭は、他者の包摂と排除のロジックに内在的に潜む西洋的・領土的パラダイムの「われわれ」というアイデンティティに対してラディカルな問い直しの契機を与えうるとしました。ボーダースタディーズにおいては抜け落ちている部分である非西洋的な領域性とは何であるのかを、参加者全員で考えるよい機会となりました。ご多忙の中、報告していただいた岩下教授と前田准教授には、心より感謝申し上げます。