SRC & HOPS ボーダースタディーズ・サマースクール開催される
2016年7月25日(月)から29日(金)まで、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターを会場として、スラブ・ユーラシア研究センターと公共政策大学院との合同で「ボーダースタディーズ・サマースクール2016」が開催されました。国籍ベースで21カ国から、54名(講師・聴講生を含む)の参加がありました。そのうち、外国人の参加者数は43名でした。なお、サマースクールは、北海道大学サマーインスティテュートの枠内で実施され、登録者には単位認定も行われます。
初日の25日(月)は、午前の2限時にサマースクールの責任教員である池直美(公共政策大学院)と岩下明裕(スラブ・ユーラシア研究センター)によるイントロダクションを最初に行い、午後の3・4限時にはアレクサンドル・ディーナー(カンザス大、米国)が、ディシプリンとしてのボーダースタディーズについて理論的側面について包括的に解説する講義を行いました。5限時は、岩下明裕が北方領土問題や沖縄米軍基地問題など日本の内と外の境界問題について解説し、現状では「障壁」となっている日本の国境を「ゲートウェイ」に変える試みとしての国境観光の取り組みについて紹介をしました。初日には生協中央食堂にてウェルカムパーティーも開かれました。
二日目の26日(火)には、2限時にデイビッド・シム(フローニンゲン大、オランダ)が、北朝鮮の日常生活や社会の表象について取り上げ、「視覚の政治(visual politics)」という視覚から分析を行いました。3限時には、藤森信吉(スラブ・ユーラシア研究センター)が、ドネツク人民共和国(ウクライナ領内)と沿ドニエストル共和国(モルドヴァ領内)を主な事例として、非承認国家をめぐる政治経済学について現地調査の結果を含む豊富な一次資料に基づいて解説しました。4限時には、田畑伸一郎(スラブ・ユーラシア研究センター)が、ロシアの北極圏開発の現状と課題について、石油・ガス開発を中心としつつもそれに留まらない多面性について詳らかにしました。5時限には、翌日の移民についての講義の予習の意味も込めて、日本に暮らす日本人と外国人の混血の人々の生き様に焦点を当てた映画「ハーフ(Hafu)」の鑑賞を行いました。
三日目の27日(水)には、2限時にポール・フライヤー(東フィンランド大)が、EUの移民問題について講義をしました。理論的側面からスタートし、EU諸国の移民政策やアプローチが一枚岩でないことを説明しつつ、中東難民問題の中であまり注目されてこなかったフィンランドの移民政策について詳しい説明がなされました。3限時には、池直美が、日本と韓国における在日コリアン、日系ブラジル人、在外同胞をめぐる政策と両国内での地位の問題について論じました。次いで4時限には、ヨニ・ヴィルックネン(東フィンランド大)が、ロシアへの中央アジアからの労働移民の間でのコミュニティと食をめぐる問題(「フードスケープ(foodscape)」)という、移民問題に新たな光を当てる報告を行いました。5時限には、地田徹朗(スラブ・ユーラシア研究センター)が、中央アジアのアラル海災害を事例に、環境問題とボーダー、そしてスケールの問題について論じました。
スクール最終日には、2限時に阿部千里(NPO "Ainu Indigenous Peoples Film Fest")が、日本におけるアイヌ民族の歴史と日本政府による先住民政策の変化と実態について論じました。3限時には、26日にリニューアルオープンしたばかりの北海道大学総合博物館を訪問し、第二期「国境観光」展示を展開している境界研究ユニット(UBRJ)と2015年度に新設された北極域研究センターのブースを中心に見学をしました。4限時と5限時には、参加者を9つのグループに分けて取り組ませた、グループワークの報告会が行われました。「2030年の世界」について、移民・環境・世界経済などのトピックの中から各グループが1つを選択し、グループごとに内容をまとめ上げ、参加者全員が何らかの報告をするという形式で行われました。聴講生を含む参加者のレベルは様々でしたが、英語で報告をするのが始めてという参加者もおり、ボーダースタディーズについての知識のブラッシュアップが図られたというだけでなく、教育的効果も非常に高いものでした。スクール終了後には、SRCラウンジにてオール・ダン・パーティーが開かれました。
29日(金)には、ポスト・スクール・エクスカーションを実施しました。前日のアイヌ民族に関する講義に引き続き、まず白老町のアイヌ民族博物館「ポロトコタン」を訪問して、アイヌ舞踊を鑑賞し、民族楽器であるムックリの演奏体験を行い、アイヌ民族料理に舌鼓を打ちました。その後、45分程度の自由時間を設けて博物館の見学を行いました。ポロトコタンまでの道中では、山崎幸治(アイヌ・先住民研究センター)にポロトコタンの設置をめぐる経緯とその役割について事前解説をしていただきました。次に、同じく白老町の飛生アートコミュニティーを訪問しました。飛生アートコミュニティーは、1986年に過疎化により廃校になった旧飛生小学校の校舎を活用する形で創設されました。2代目主宰の国松希根太氏は、自らが彫刻家・画家として活躍する一方、飛生アートコミュニティーでは、「飛生芸術祭/飛生キャンプ」の企画・開催や「飛生の森」の整備など、白老町や飛生地区のリソースを活用して参加型のアート活動を展開しており、飛生に訪れてpathやtrailを刻むことそのものがアートになるという仕掛けに参加者一同、感銘を受けました。また、国松氏の作品そのものが境界線をテーマとしており、参加者からは作品のモチーフについて様々な質問が飛び交いました。また、飛生アートコミュニティーには、2009年から14年まで北海道大学総合博物館技術支援員としてGCOEプログラム「境界研究の拠点形成」の博物館展示で活躍し、その後は、スラブ・ユーラシア研究センター研究支援推進員として第一期「国境観光」展示のデザインに携わった宇佐見祥子さんがメンバーだったことも特筆させていただきます。宇佐見さんは、闘病の末、2015年10月に永眠されました。しかし、こうして宇佐見さんが深く関わった飛生アートコミュニティーとUBRJとがコラボレーションできたことは、天国の宇佐見さんも微笑みながら見守ってくれたのではと思います。
GCOE時代の過去4回のサマースクールと比較して、今回は倍以上の人数の参加がありましたが、大きなトラブルもなく終了することができ、概ね参加者からも高評価をいただいております。講義内容も、SRC、HOPSそしてUBRJのカラーがバランスよく出ており、講師・参加者からもたいへん好評でした。サマースクールの実施は「将来への投資」でもあります。これを機に、UBRJはボーダースタディーズの裾野をさらに広げ、さらなる国際学術交流・協力に邁進してゆく所存です。全体統括の池直美先生、岩下明裕先生、スタッフの方々、講師の先生方、そして、近くは日本国内から遠くはアフリカのガーナまで、世界各地から札幌にお越しいただいた参加者の皆様に心より感謝申し上げます。