2016年10月25日、東京の竹芝桟橋のすぐ隣にあるベイサイドホテル アジュール竹芝にて、境界地域研究ネットワークJAPAN(JIBSN)設立5周年シンポジウムが開催されました。本シンポジウムは、毎年恒例のJIBSN年次セミナーも兼ねており、今回は小笠原村によるオーガナイズでした。翌日に、小笠原ボーダーツーリズムが控えており、JIBSN関係者の顔ぶれの他にボーダーツーリズム参加者の方々にもご参加いただきました。(以下、個人名につきまして、敬称は省略させていただいております。)
冒頭で、JIBSN代表幹事である根室市を代表して石垣雅俊・副市長による挨拶が行われ、また、本年2月の選挙で当選をした比田勝尚喜・新対馬市長からも挨拶がありました。その後、今回のシンポジウムのホスト役である小笠原村の渋谷正昭・副村長が基調報告を行いました。1830年から始まる小笠原諸島での人間の生活についての歴史と、ボーダーの変遷、そして、中国のサンゴ密漁船問題などについて言及がありました。小笠原村は、元々、欧米系の移住者が住み着いた土地で、かつ、パラオ、サイパン、さらにはグアムなど南洋群島との結びつきが深く、その歴史が小笠原独特の文化・食に今なお根付いているとのことです。
次の第一セッションは「境界地域の世界遺産登録を考える」では、これから世界自然遺産登録を目指す竹富町の新盛勝一・自然環境課長による概要説明、現在「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として市内12の構成資産の世界遺産への登録作業が進行中の五島市から久保実・市長公室長による経過報告、そして、すでに知床が世界自然遺産に登録されている羅臼町より田澤道広(知床財団)による現状報告と将来構想について報告がありました。そして、これらの報告に対して、5年前に世界自然遺産に登録がされた小笠原村の渋谷・副村長からコメントがなされました。特に印象的だったのは、五島市による報告で、他の登録遺産候補との競争やICOMOSとのやりとりなど、世界遺産登録におけるポリティクスの実態が具体的に紹介されました。
第二セッション「JIBSN5周年:成果と展望」はパネルディスカッションの形式で行われました。岩下明裕(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター、JIBSN企画部会長)がモデレーターを務め、比田勝・対馬市長(二代目JIBSN代表幹事は対馬市長)、石垣・根室副市長(現代表幹事代行)、小嶺長典・与那国町長寿福祉課長(初代JIBSN代表幹事は与那国町長)、斉藤穣一(稚内市教育委員会)、そして、山陰地方を中心に境域や領土問題のローカルな実態について数々の報道実績のある田中輝美(ローカルジャーナリスト)が登壇し、JIBSNのこれまでの活動を総括し、将来に向けた構想を語り合いました。本年よりJIBSN加盟機関となった北海道標津町より橘秀克・副町長が登壇し、標津町についての紹介もなされました。JIBSNは、領土問題についての知見の啓蒙・共有や国境離島振興に向けたネットワーク作りだけでなく、行政の実務者と研究者とを結ぶ役割も果たしてきました。議論の中では、今般予定されているプーチン・ロシア大統領の訪日と北方領土問題の行方や竹島問題についての島根の現状についてだけでなく、根室市や与那国町による研究者のインターンの受け入れや国境観光プロジェクトについても言及がなされました。そして、田中による、境港を巻き込んで隠岐の島でのボーダーツーリズムの実現をというポジティブなかけ声と共に、元々はボーダーツーリズム発祥の地であった与那国町をどのように国境観光にインボルブしてゆくのかなど、課題も語られました。
同じ会場で行われたレセプションでは、財部能成・前対馬市長、山田吉彦・東海大学教授、木村祟・京都大学名誉教授などJIBSN設立に大きく関わった方々からもご挨拶をいただき、たいへんな盛り上がりを見せました。その名の如く、JIBSNは日本の国境自治体関係者と境界問題を専門とする研究者、そして、問題に関心をもつ一般市民の方々をネットワークとして結ぶものです。JIBSN設立5周年を経て、その目的は達成されていると言えるでしょう。次期代表幹事は長崎県五島市となることが承認され、次回の年次セミナーは対馬市で開催されるとの由です。今後のJIBSNの活動にもこうご期待です。
(文責:地田 徹朗)