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2017.03.07

UBRJセミナー「旅する木彫り熊~アート・ツーリズム・境界~」大盛況のうちに開催

UBRJセミナー「旅する木彫り熊~アート・ツーリズム・境界~」大盛況のうちに開催

 2017年3月4日(土)、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター大会議室とラウンジにて、UBRJセミナー「旅する木彫り熊~アート・ツーリズム・境界~」が開催されました。スラブ・ユーラシア研究センター境界研究ユニットとアイヌ・先住民研究センターとの共催で行われました。土曜のお昼過ぎという時間帯にもかかわらず、80人もの方にお越しいただきました。UBRJセミナーとしては久々の境界「表象」に関連するセミナーです。
 セミナーではまず、木彫り熊研究の第一人者である大谷茂之(八雲町木彫り熊資料館)からお土産品としての木彫り熊製作・販売の歴史的な展開についてご報告をいただきました。「お土産品」という括りになると、大正時代に八雲町に徳川義親がスイスから木彫り熊を持ち帰り、冬季の入植民の収入源として彫らせたというのが発祥でした。しかし、アイヌは、熊を神聖な動物として尊び、神事に用いるイクパスイ(捧酒箸)といった祭具に熊を彫ることもあり、旭川を中心としてより豪快な熊の木彫りを生産するようになり、北海道の定番のおみやげ品となっていったということが分かりました。また、現役の木彫家である荒木繁さんを交えたトークセッションでは、山崎幸治(アイヌ・先住民研究センター)のモデレートによって、ご苦労をされた彼の人生遍歴や木彫の作風・素材や道具について分かりやすい紹介がなされました。そして、木彫り熊の「リピーターを増やす」ことの必要性、つまり、おみやげ品という括りを脱して、造られたものが評価されなければならないという、木彫り熊の意味合いが変容している現在と、木彫の後継者不足に悩む未来の問題点などを知ることができました。このように、セミナーは、木彫り熊の過去・現在・未来について包括的に知る貴重な機会となったと思います。
 ボーダースタディーズに絡めますと、本セミナーから、木彫り熊が醸し出す何かエキゾチックな北海道やアイヌを表象する「アイコン」のようなものが、お土産品の質の変容(よりコンパクトなものが好まれる傾向など)、流通・通信の発展などによって現在進行形で変容しつつあるということが重要なポイントだと考えられます。同時に、実際に彫り続けている荒木さんのようアイヌ民族の木彫家さんたちは、やはり「アイヌの文化」として木彫り熊を守り続けてゆきたいという強い気持ちがあることも分かりました。
 セミナー後、センターのラウンジでは、荒木さんの物産展での実演で鍛えられたという軽妙なトークと共に、ミニ熊の木彫りの実演も行われ、来場者の方々は熱心に見入っていました。荒木さん曰く、「こんな人だかりの前で彫ったのは初めてだ」と感激していただきました。
 そして、ラウンジで展示された100頭を超える大小の木彫り熊の展示はご来場いただいた皆様にたいへん好評でした。ただの木彫り熊と言うなかれ。地域ごと作家ごとに表情・毛並みなど多種多様な木彫り熊が存在することが分かりました。そして、これらは山崎先生のご両親が北九州市で収集されたもので、まさに日本中を旅して北海道に「里帰り」してきた熊さんたちです。
 セミナーではアンケートも集めましたが、「またこのようなセミナーを開催して欲しい」と好評価をいただきました。山崎先生、荒木先生、大谷先生、そして、準備段階から当日のロジまでお手伝いいただいたスタッフの皆さま(所外の方にもお手伝いいただきました)、本当にありがとうございました。そして、お越しいただいた来場者の皆様に心より感謝申し上げます。

 大谷茂之先生によるセミナー参加記もぜひご覧ください。こちらをクリック!
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