2013年に習金平が中国の「一帯一路」(OBOR)構想を打ち出してから、この不可解なフレーズをどう解釈すべきかという熱い議論が繰り広げられている。当シンポジウムのオーガナイザーであるエドワード・ボイル(九州大学)は、OBORがじつのところ、以前から存在している一連のイニシアティブのパッケージ替えに過ぎないという事を強調している。現在、学者やジャーナリスト、政策担当者たちは、まるでそれが唯一の話題であるかのようにOBORについて討議を交わしている。国際シンポジウム“Between Asias: inter-regional spaces”のひとつの目的は、地域に対する新しい視点の数々をこの場で確認することにあった。特にボイルは、「connectivity between spaces地域間の連結性」を考察し、「countries experience of being within that spaceその地域における各国の経験」を精査することを参加者に求めた。
第1セッションは「Connectivity at the Sino-Indian Interface中印の境界面の連結性」に焦点が絞られた。最初の登壇者のサラ・シュナイダーマン(ブリティッシュ・コロンビア大学)は、2015年に甚大な被害を及ぼしたネパールの2回の地震と、その後の国際的規模の援助活動(中国が存在感を示した)について文化人類学的なアプローチを行った。宮本万里(慶応大学)は、ドクラムにて展開された中印の領土問題において、ブータン政府がとった対応について報告した。コメンテーターの伊豆山真理(防衛研究所)は、これからの国際社会の中で中印の関係性がますます重要度を高めていくだろうと指摘した。
第2セッションのテーマである「Security at the Sino-Indian Interface中印の境界面の安全保障」は、伊豆山の主張を引き継ぐものとなった。プラシャント・クマル・シン(インド防衛研究分析所)は、OBORと中国によるパキスタンの支援を挙げ、対抗策として、今こそインド、アメリカ、日本、オーストラリアが安全保障を目的とした協力関係を結ぶことを提案した。山根聡(大阪大学)は前者に続いて中国とパキスタンの関係強化に言及しつつ、カシミールを巡る係争が、関係国の経済的利益をもたらしうるという楽観的側面について指摘した。
第3セッションは「Reconceptualising Spaces “in-between”「in-between」地域の再概念化」と題して、「in-between」をキーワードとして様々な事例が報告された。浜由樹子(津田塾大学)は、ロシアの国際的な位置づけに関する「ユーラシアニズム」概念の変遷について報告した。ウムト・コルクト(グラスゴー・カレドニアン大学)は、トルコ政府が、移民問題やトルコ・アフリカ関係などの外交問題の様々な場面において、自国が「東」と「西」の間にかかる「橋」であるという、あいまいな「in-between」のレトリックを活用して対処しているという分析を行った。マーク・チューリン(ブリティッシュ・コロンビア大学、イェール大学)は、チベット・ビルマ語派を例に、言語学的な分析を行った。
シンポジウムは、岩下明裕(九州大学、北海道大学)が司会を務め、ディビッド・ウルフ(北海道大学)、三村光弘(環日本海経済研究所)、エド・プルフォード(日本学術振興会外国人特別研究員)をディスカッサントに迎えてのラウンドテーブル「Reconceptualising Interstitial Spaces and China中間地域と中国の再概念化」で締めくくられた。聴衆からの質問も絶えず、積極的な議論が交わされた。
1日のシンポジウムを通して、これから検討されるべき様々な問題点が浮かび上がった。地域間交流に対する新しい視点を共有するというシンポジウムの目的は達成されたものと思われる。
原文はこちら(原文:ブル・ジョナサン 抄訳:斎藤慶子)