「旧ソ連東欧地域における農村経済構造の変容」


  1. 研究組織
  2. 研究目的

1. 研究組織

研究代表者: 家田修(北海道大学スラブ研究センター教授)
研究分担者: 林忠行(北海道大学スラブ研究センター教授)  山村理人(北海道大学スラブ研究センター教授)  吉野悦雄(北海道大学経済学研究科教授) 
研究協力者: 小島修一(甲南大学文学部); 吉田浩(岡山大学文学部); Tomas Doucha (Research Institute of Agricultural Economics, the Czech Republic); Gejza Blaas (Research Institute of Agricultural Food Economics, Slovakia); Pal Juhasz (Budapest University of Economic Sciences, Hungary); Klaus Reinsberg (Institute for Agricultural Development in CEEC (IAMO), Halle University,Germany); Stanislaw Hejbowicz (Vilnius College of Agriculture, Lithuania); Diana Kopeva (Research Institute of Market Economy, Bulgaria); Ilia V. Gerasimov (Executive Editor, International Quarterly Ab Imperio, Russia); Zemfira I. Kalugina (Institute of Economics and Industrial Engineering, Siberian Branch of RAS, Russia); David J. O'Brien (Missouri University, USA); Katalin Kovacs, Hungarian Academy of Sciences, Center for Regional Studies, Hungary); Klaus Frohberg (Institute for Agricultural Development in CEEC (IAMO), Halle University, Germany); Gely Shmelev (Institute of Economy, Russian Academy of Sciences, Russia)

2. 研究目的

旧ソ連東欧地域は政治的な体制転換後、それまでの集団的な農業経営の解体再編を行っ ている。その結果、地域によって個人経営が優勢となっている場合、集団経営が名称 をかえただけで依然として優勢な場合など、農業経営形態は多種多様となった。 本研究では、経営形態、農家経営、地域経済および地域農政という視点から、ロシア 東欧農業の変容の実体を調査・分析し、新たに生まれつつある農村経済構造を解明す ることが目的とされた。

具体的調査研究項目としては以下の4点が掲げられた。1)農業経営形態再編の全体 像を調査する。2)土地問題を含む集団化農業の解体や再編が農村経済や地域経済と どのように係わっているかを調査する。3)以上の調査をロシア東欧の主要な地域に ついて行い、比較検討する。また、その結果を基にして、ロシア東欧農業の長期的、 構造的な動態分析を行う。4)東欧を中心に農業政策および地域農業政策の現状を調 査する。またEU加盟問題と東欧農業の関連も調査する。

本研究の研究成果によって得られた新たな知見の概要は以下の通りである。
1. 個人農場への移行:
a) (政治一元論の限界)政治体制の移行により集団農場が解体し、個人農家が形成 されるとの一般的予測は妥当しない。
b) (経済的連続性論の限界)社会主義時代における集団農場の経営実績とその後に おける残存に一定の相関性はあるが、一般化はできない。
c) 本研究では農場経営を地域内資源の統合という観点から見ることにより、集団経 営か個人経営かという対立の図式を越えた地域指導者論の可能性という新たな視点が 得られた。
2. 土地問題:
a)(小土地所有)農地改革の結果、数ヘクタール規模の小土地所有が圧倒的な多数を 占めるようになった。ただしソ連継承国の多くではいまだ個人的所有権は未確立のま まである。土地所有の統合過程は例外的だが、東欧の場合にはその背後に西欧資本の 存在が認められる。
b)(借地問題)旧集団農場が継承された場合も含めて中・大規模の農場は無数の小借 地の上に成り立ち、土地所有権が強くなるに従って高率借地料、土地の散在性が農場 経営の足枷となっている。
c)(土地保全)土地の持続的生産性を保護する主体が存在せず、土地資源の略奪的利 用が始まっている。

3. 人口問題:歴史的な農村過剰人口問題が現在でも多くの国で存在し、農業は商品 生産である前に生存保障の術である。商工業部門が過剰人口を吸収する見込みは少な く、農村の貧困は最大の社会問題になる。
4. EU加盟問題:EU農業政策に合致する農業経営はあまり発達していない。西欧の 生産拠点が東に移る動きは東欧の失業問題にとり肯定的要因であるが、西欧農業との 競争が激化している。地域内資源統合における指導的農家の育成を考慮すると、EU加 盟は東欧の農業に大きな打撃を与える可能性が高い。中央政府の農業政策は表面的に はEU基準に合わせた農業の再編をうたっているが、農業が果たしている社会保障的機 能を考えると、一貫した農業政策をとることが困難になっている。地域農政の可能性 は未だ十分に発揮されていない。

本研究では内外の研究者との有機的な研究成果交換を図るため、まず第二年次の平 成12年10月26-30日にチェコでロシア、リトアニア、チェコ、スロヴァキア、ハンガ リー、ブルガリア、およびドイツの農業経済専門家と本研究分担者が参加した国際ワー クショップを開催した。その成果は報告集 O.Ieda ed., The New Structure of the Rural economy of Post-communist countries, Slavic Research Center, Hokkaido University, 2001としてまとめられた。また最終年度の平成13年7月11-14日には北海 道大学スラブ研究センターでロシア、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー、ドイツ、 アメリカなど欧米研究者を含めた国際シンポジウムを開催し、その成果もO.Ieda ed., Transformation and Diversification of Rural Society in Eastern Europe and Russia, Slavic Research Center, Hokkaido University, 2002として刊行され た。両会議の報告集はスラブ研究センターの公刊物として内外の研究機関に配付され ることになっている。また邦語においても本研究参加者による報告集『東欧ロシア地 域における農村経済構造の変容』が平成13年に刊行された。

このように本研究の成果は本研究参加者によって企画運営された国際会議の場におい て、内外の関連する研究者の研究成果ともども集中的に討議検討され、国際的な水準 から見ても高い評価を得るものとなった。


スラブ研究センター