スラブ研究センターニュース 季刊 2006年 夏号 No.106 index
21世紀COE「スラブ・ユーラシア学の構築」の成果を世に問うべく企画されたスラブ・ユーラシア叢書の刊行が始まりました。その第1弾が岩下明裕編著 『国境・誰がこの線を引いたのか:日本とユーラシア』(北海道大学出版会、2006年)です。帯には「日本を取り巻く3つの国境問題:尖閣・竹島・北方領 土」というキャッチが踊ります。本書は2005年度の公開講座「ユーラシアの国境問題を考える」の講義を収録したもので、アカデミックな水準を落とさず に、口語調で大変読みやすいものに仕上がっています。本書の出版を企画し、編集した岩下研究員によれば、「ようやく日本でも国境問題研究の重要性が認めら れてきた。本書の刊行を契機として、ナショナリスティックなムードに流されず、世界の国境問題を客観的に比較研究できる気運が高まれば」、とその意気込み を語っています。早速、『新潟日報』に書評で取り上げられるなど国境に敏感な地域から本書への反響は生まれつつあるようです。
ただ難点は、大学出版会の刊行ということもあり、宣伝や本屋への配本などがあまり行き届いていないことです。出版社は、1,600円という清水の舞台から 飛び降りたつもりで本の値段を下げてくれました。本書が1人でも多くの読者の眼にとまることを期待します。岩下研究員は、「いままで関わった本作りのなか で最高に面白かった」「もし、手にとって面白くなかったら、自分が買い取ってもいい」とまで言い切っています。
叢書の第2弾は、ペテルブルグ文化をテーマとした一巻(題名未定)で、年内の刊行が予定されています。
今後も叢書は北海道大学出版会から年2冊程度のペースで出版されていきます。
センターは今年2月に中村泰三氏より1,000万円の寄付をいただきました。中村泰三氏は1933年生まれ、大阪市立大学に長く勤められ、その後、大阪経 済法科大学を経て、この3月まで、京都女子大学に勤務されました。ロシア・東欧の地理学を専門とされ、この分野の専門家が少ない日本において第一人者とし て活躍されてきました。本センターにおいても、1992~1993年度に客員教授を務められました。
一昨年、センターの原暉之教授(現名誉教授)を通じて、中村氏より所蔵資料の寄贈についてのご相談をいただきました。その際に、鈴川基金に追加するような 形で寄付をしたいという有り難いお話がありました。蔵書の北海道大学附属図書館への受け入れが進行するのと平行して、この話が具体化し、最終的には 2005年10月に大阪で中村氏とお話をして、この2月に中村研究奨励基金としてご寄付いただくこととなりました。
センターでは、「北海道大学スラブ研究センター中村研究奨励基金要項」を作成し、 この基金の運用体制を整えました。実際の運用については中村氏からセンターに一任されていますが、 鈴川基金の高い評価に鑑み、今年度より鈴川基金に合わせて、鈴川・中村基金奨励研究員制度として 運用することを予定しています(実際には、21世紀COEプログラム期間中は、COE=鈴川・中村基金奨励研究員 制度という名称となります)。中村氏からは、上記のように、ロシア・東欧地域の地理関係の蔵書1,751冊の寄付も受けていますし、その附属図書館への大 型コレクションとしての収納もこの3月に完了しましたので、それを若い研究者に使ってもらううえでも、鈴川基金を補強することのメリットが大きいと考えま した。7月6日・7日に、スラブ研究センター夏期国際シンポジウム「スラブ・ユーラシアへの視線:変化と進歩」が、センター大会議室で開かれました。このシンポ ジウムは、21世紀COEプログラム「スラブ・ユーラシア学の構築」(代表:家田修)主催のもと、科学研究費補助金基盤研究A「ユーラシア秩序の新形成: 中国・ロシアとその隣接地域の相互作用」(代表:岩下明裕)の支援を受けて、企画されました。
全員集合!
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今回のシンポジウムでは、ロシアを始めとする旧ソ連空間を国際関係の上で再定義するべく、いわば「外」や「周辺」からスラブ・ユーラシア地域を取り上げよ うと考えました。世界各地からスラブ・ユーラシア地域の国際関係にかかわる著名な専門家がセンターに集結し、「ロシア外交・再考」「南アジアとスラブ・ ユーラシア」「中央アジア:ユーラシアの十字路」「ユーラシア国境の協力と困難:中ロ関係の場合」「ロシアと東アジア」などのパネルで議論を戦わせまし た。国内も沖縄を含むほぼ全国から参加者が集い、普段は当センターから縁遠い、中国学者、インド学者、戦略研究者も多数参加しました。全てのセッションで 中国の問題がとりあげられ、中央アジアや上海協力機構といったテーマが南アジアや東アジアのセッションでも話題となりました。ユーラシア地域の国際関係を とりあげるとき、もはや一つの地域専門家のみを集めて会議をおこなっても不十分だということに今回の参加者みなが気づいたようです。シンポジウムの前日に 打ち上げられた7発の北朝鮮のミサイルは、当然のごとく参加者たちの間でも議論されましたが、これがイランの核開発問題に対する国際社会の対応ともリン ケージし、日米中ロが「団結」を示した国連安保理決議やG8声明など様々なインタラクションを呼び起こしたのをみるとき、この種のスタンスを大きく構えた シンポジウムの意義は今後、ますます高まるでしょう。主宰した個人としては、北朝鮮の核ミサイル以上に、シンポ終了直後に起こった200名が亡くなったム ンバイの列車同時爆破テロの方がはるかに衝撃的でした。近年、平穏になりつつあったインドとパキスタンの間が再び緊張しないことをただ祈るばかりです。
提出されたペーパーは18本。日本から4本、中国から3本、ロシア、米国が各2本、韓国、ハンガリー、インド、パキスタン、ウズベキスタン、ウクライナ、 オーストラリア各1本。国際関係をテーマにした会議にふさわしい多彩な顔ぶれとなりました。ユーラシアにおいて常に中国が重要なテーマになる以上、中国人 専門家の会議への「巻き込み」が不可欠との判断から、地域差も考慮して、北京、上海、ハルビンから招請をおこないました。また、ロシア外交をテーマにした 最初のセッションでは、コメンテーターを韓国から呼びました。当センターは、この種の企画のアジアのハブとして機能すべく、とくに東アジアのユーラシア研 究者との連携をより強めていく予定です。また今回はシンポがカバーする範囲を南アジアまで広げることができましたが、次の機会にはアフガニスタンやイラン にも踏み込みたいと考えています。
カシミール問題も札幌で解決?南アジア・トラック2の乾杯
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2日目には英露同時通訳が入り、多彩な顔ぶれが集結するがゆえの言葉のバリアを越え、熱のこもったやりとりが繰り広げられました。お昼休みにはランチオン が百年記念館きゃら亭で開催され、河東哲夫元ウズベキスタン・タジキスタン大使による講演もおこなわれました。ランチオンにはおよそ70名が参加し、日本 の対中央アジア外交をつくってきた現場からの声を学ぶ良い機会となりました。シンポにおける討論と熱気が参加者たちにフィードバックされ、各ペーパーが収 録されたSlavic Eurasian Studiesが年度内に刊行されることを期待しています。
国際シンポジウムの前日、21世紀COE企画として、第3回国際若手研究者ワークショップが開催されました。報告は下記の通りですが、ロシア、中央 アジア、コーカサスの内政に関する報告が多くなりました。今回は、日本側報告者については公募選抜時点でのフル・ペーパーの提出が義務付けられたため、従 来にもまして優秀な報告が多く、外国人参加者の驚きを呼んでいました。また、国際シンポジウムの外国人参加者の熱心な参加と講評が目立ち、国際若手ワーク ショップの趣旨が浸透してきたことを感じました。
Panel 1 : | Political Strategies and Regimes in Post-Soviet Countries: Russia and Georgia |
OHGUSHI Atsushi (Hokkaido Univ.) |
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"Institutionalizing
a Government-Party Regime:
the Case of 'United Russia'" (Revised June 26) |
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Jonathan Wheatley |
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"Democratization
in Georgia since 2003:
Revolution or Repackaging?" |
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KATO Mihoko (Hokkaido Univ.) |
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"Russia’s
Multilateral Diplomacy in the Process of
Asia Pacific Regional Integration-The Meanings of ASEAN for Russia-" |
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Panel 2 : | Community
Politics in Slavic Eurasia: Uzbekistan, Turkmenistan, and the Russian
Far East |
HIWATARI Masato (Tokyo Univ.) |
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"Traditions
and the Private Economy in
Transition: A Case Study of the Gap
in Uzbekistan" |
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Jan Sir (Charles Univ.) |
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"Turkmenbashi Personality Cult and
Its Role in
the Modern Turkmen State Building'" |
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NAGAYAMA Yukari (Hokkaido
Univ.) |
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"Reasons for
Language Decline in the Russian Far
East: A Case of Nymylan-Alutor in Kamchatka" |
ウクライナやベラルーシの研究で、これまでもスラブ研究センターと協力関係にあったロシア科学アカデミー・スラブ学研究所と、正式の協力協定を締結するこ とになりました。家田・松里研究員がモスクワを訪問して、6月6日に最終的な詰めがおこなわれました。また、この交渉にあわせて、スラブ学研究所でセミ ナーが開催され、スラブ研究センターから、COE研究員である赤尾光春氏と志田恭子氏が、それぞれ、ユダヤ人問題とロシア帝国論について報告しました。セ ミナーに出席していたレオニード・ゴリゾントフ氏(2004年度の21世紀COE短期外国人研究員)は、「日本の研究者の知識の水準が高く、活発に研究し ていることが皆にわかったと思う」と感想を述べていましたが、たしかに、協定の締結をたんなる行政的な催しとせず、日本の若手研究者の水準の高さをモスク ワで誇示できたことは有益だったと思います。
志田研究員の報告
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体制転換が始まった頃、ロシア科学アカデミーのような組織は、資本主義経済下ではとても存続できないだろうと言われていましたが、スラブ学研究所を見る限 りでは存続しています。200名近くいる研究員が、東中欧、バルカン、ウクライナ・ベラルーシ(部分的にはリトアニア)という、あまり広くはない地域をカ バーし、しかも、言語、文学、歴史しか研究していないのですから、個々の研究者の守備範囲は狭くなり、研究姿勢は慎重となり、その分、確かに水準は高くな ります。しかし、より広い学術的文脈における個々の研究の意味・位置づけを論証することを絶えず求められる西側の研究者と、いかにして共通の言語を見出し てゆくかということは、先方にとって難しい問題でしょう。先方の所長・副所長に向かって、家田研究員は、「同じアカデミーのヨーロッパ研究所はバルトを研 究していない、東洋学研究所はコーカサスをあまり研究していない。だからあなた方がこれら地域をカバーすべきだ」と熱弁を振るっていましたが、協定を結び に来た人からこんな直截な進言を受けたのでは、向うも驚いたでしょう。もちろん、ユーラシア人の場合、こうしたざっくばらんな会話が今後の協力を妨げると いうことはありませんが。
合意された協定の案文は、6月23日にスラブ研究センターの協議員会で承認され、今後の署名・文書の交換をもって発効することになります。
5月30日、ブダペストのブダ王宮近くにあるハンガリー科学アカデミー人文社会系研究棟会議室で、21世紀COE「スラブ・ユーラシア学の構築」の欧文成 果出版シリーズSlavic Eurasian Studies第4巻 The Hungarian Status Law: Nation Building and/or Minority Protection、及び第9巻 Beyond Sovereignty: From Status Law to Transnational Citizenship? の公開書評セミナーが開かれました。この二巻は企画、編集段階から同アカデミーの法学研究所、少数民族研究所及び外 務省系のテレ キ研究所と共同で事業を推進してきました。今回、第9巻が無事刊行されたのを機に、ハンガリーの関連研究者そしてマスコミ関係者をも招いて、新刊書紹介の 機会が設けられたのです。
セミナーのようす
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当日はサルカ・ラースロー少数民族研究所長(写真、左から2人目)の司会の下、第4巻についてパプ・アンドラーシュ氏が、第9巻についてカーントル・ゾル ターン氏(左から3人目)がそれぞれ紹介と批評をおこないました。また筆者は二巻の刊行目的と日本での研究状況について話をしました。1時間あまりのセミ ナーでしたが、30名ほどの出席があり、地位法への関心の高さがうかがえました。
筆者はセミナーに先立ってハンガリー・ラジオのインタビューを受け、またセミナー後にはハンガリーで衛星放送を担当しているドナウ・テレビ局のニュース解 説番組に生放送で出演しました。テレビ番組では、二つの出版物の共同編集者であるカーントル氏及びマイテーニ・バラージ氏(写真、左から4人目)とともに 本の紹介、そして地位法及び現在の国外ハンガリー人問題について意見を述べました。こうしたお膳立てはカーントル氏等が全て手配してくれていたのですが、 それにしてもハンガリー側における反響の大きさに改めて今回の出版の意義を感じました。
裏話ですが、生放送番組にもかかわらず事前の打ち合わせは最小限で、全くのぶっつけ本番でした。のっけからマイクを振られたり、予期していなかった政治的 含みのある質問に対しても答えねばならず、目の前が真っ白になりそうな30分でした。また出番を待つ間にメイク担当者がやってきて、「反射よけです」と 言って、やにわにおしろいのようなものを我々の禿頭に塗られた時には、一同苦笑しました。
選考の結果、次の6名の方々が、本年度のCOE=鈴川・中村基金奨励研究員として選ばれました。
氏 名 |
所 属 |
滞 在 期 間 |
ホスト教員 |
研究テーマ |
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生田 真澄 |
神戸大学大学院文化学研究科博士課程 |
2006.7.24 ~8.10 |
宇山 |
帝政ロシアにおけるムスリム知識人のイスラーム改革思想 |
木寺 律子 |
大阪外国語大学大学院言語社会研究科博士課程 |
2006.7.2 ~7.18 |
望月 |
19世紀ロシア文学:ドストエフスキーにおける罪の意識の問題 |
Shulatov,Yaroslav |
慶応義塾大学大学院法学研究科博士課程 |
2006.10.3 ~10.20 |
ウルフ |
日露戦争後から第一次大戦にかけての日露関係 |
角田 耕治 |
早稲田大学大学院文学研究科博士課程 |
2006.9.7 ~9.14 |
望月 |
詩法とA.S.プーキシンの詩学 |
長島 大輔 |
東京大学大学院総合文化研究科博士課程 |
2006.7.17 ~7.28 |
家田 |
ユーゴ社会におけるナショナリズムと宗教:60‐70年代のボスニアを中心に |
村上 亮 |
関西学院大学大学院文学研究科博士課程 |
2006.7.17 ~7.31 |
家田 |
オーストリア・ハンガリー帝国統治下のボスニア・ヘルツェゴヴィナ |
今年で21回目を迎えるスラブ研究センター公開講座が、5月12日(金)から6月2日(金)までの毎月曜と金曜に,計7回にわたって開かれました。 昨 年度の公開講座は20周年という記念すべき節目であり、国境問題という時機にかなったテーマを扱ったこともあり、マスコミでも大きく取り上げられました。 その結果、130名近い方が参加されるという近年にない盛り上がりをみせました。
今年度は、「多様性と可能性のコーカサス:民族紛争を超えて」と題し、ユーラシア中央部に位置し、国際政治や文明の衝突の最前線として近年注目を浴びる コーカサスに焦点を絞りました。昨年のように一つのテーマでユーラシア大陸全体を切るのではなく、一つの地域に注目して、様々なディシプリンの専門家を集 めて総合的な理解を深めるという手法を採用しました。
一昨年のベスランの悲劇(ロシア学校占拠事件)やチェチェン紛争、カスピ海原油など、これまでもコーカサスについて報道がされることは度々ありました。し かし、ソ連崩壊以来、ユーラシア大陸中心部の要衝として大きな注目を集めるコーカサスについて、わが国では詳しく取り上げられる機会はほとんどありません でした。今回の公開講座では、21世紀COE「スラブ・ユーラシア学の構築」と連携することで、数少ないコーカサス研究者を全国から招聘し、政治・経済・ 歴史・文化といった多方面からのアプローチにより、人類史の秘境コーカサスの全貌に迫りました。一見地味なテーマですが、本邦初の機会ということもあり、 90名近い方が受講を申し込み、結果として85名の方が受講されました。ダゲスタンのイスラーム政治について熱弁をふるう松里センター長 |
講座では、各講師がコーカサス社会の形成と発展、現在の姿に至るまで、様々な視点から講義をおこないました。列挙すると、ダゲスタンにおけるイスラーム政 治がロシア国内政治に与える影響(第1回)、コーカサスやカスピ海を巡る資源開発問題が国際政治に与える影響(第2回)、チェチェン紛争の経緯と野戦軍司 令官の経歴に見る紛争の今日の姿(第3回)、コーカサス・ダンスの様式美とトルコ共和国に散らばるコーカサス系ディアスポラ・コミュニティにおける民族文 化保存問題(第4回)、ロシア文学とアイデンティティにおけるコーカサス表象(第5回)、中央アジア史とコーカサス史の交わるところ(第6回)、コーカサ ス史にみる辺境と中心の位相(第7回)といったテーマが取り上げられました。
講座を通して、有史以来、巨大な国家や文明体にのみ込まれることなく、言語や文化の多様性を保ってきたという特異な背景を持つコーカサス多民族社会の様々 な特徴が提示されました。文明の十字路に位置する一方、大コーカサス山脈という自然障壁に守られたコーカサスの人々は、内側では多様な言語・宗教に基づく 共生の文化を築き、周辺世界ではマイノリティとしてのネットワークを生かして独自の地位を確保してきました。旧ソ連の南端に位置するという一面的な見方を 脱却し、広くユーラシア地域情勢の中でコーカサスを位置づける必要性が強調されました。
講義に熱心に聞き入る受講生。会場は毎回100人近い参加者の熱気に包まれた |
近年は流血の地として注目されがちなコーカサスですが、独特の伝統文化と芸術センスなどは欧米でも広く知られているところです。ロシア・スラブ研究から出 発し、現在、中東からインド、中国研究まで射程にいれたスラブ・ユーラシア学の構築(21世紀COEプログラム)をうたうスラブ研究センターにおいて、既 存の文明や歴史を超えた実体としてのコーカサスを取り上げた意義は少なくなかったと思われます。
会場は未知の地域への知識欲に駆られた受講生の熱気に包まれ、例年同様レベルの高い受講生の質問に、講師陣も熱心に応答していました。また、終了後も講師 を囲んで熱心に質問する受講生の姿が毎回見られました。一時間以上前から会場に足を運び予習に余念のない人、会社等でぎりぎりになりながらも毎回必ず出席 する社会人、大学生らしき若い学生など、受講生は多士済々でしたが、毎年講座を楽しみにしてくださる受講生同士が会場で挨拶を交わす姿など、21回目を迎 えるセンター公開講座の歴史の重みを実感するシーンも随所に見られました。
なお、各講義の概要は、北海道総合研究調査会の雑誌『しゃりばり』に近く連載されます。また、昨年の公開講座は、センターの新叢書「スラブ・ユーラシア叢 書」シリーズの第一号出版となった岩下明裕編著『国境・誰がこの線を引いたのか:日本とユーラシア』(北海道大学出版会、2006年)に結実しました。今 回も講義の記録を再現して、COE関連出版の単行本として出版することも計画されています。
日 程 | 講 義 題 目 | 講 師 | |
第1回 | 5月12日(金) | ロシアのイスラム政治とダゲスタンのスーフィズム | 松里公孝(センター) |
第2回 | 5月15日(月) | コーカサスをめぐる国際政治:求められるバランス外交 | 廣瀬陽子(東京外国語大学) |
第3回 | 5月19日(金) | 野戦軍司令官からジャマーアット・アミールへ | 北川誠一(東北大学) |
第4回 | 5月22日(月) | コーカサス・ダンスとディアスポラ(トルコの例) | 松本奈穂子(東京外国語大学) |
第5回 | 5月26日(金) | 「コーカサスの虜」たち:ロシア文学に表れたコーカサスのイメージ | 中村唯史(山形大学) |
第6回 | 5月29日(月) | 中央アジアとコーカサス:近くて遠い隣人? | 宇山智彦(センター) |
第7回 | 6月2日(金) | コーカサス史の転回~歴史における「辺境」と「中心」~ | 前田弘毅(センター) |
2007年度の外国人特任教授(長期)の公募は3月末に締め切られ、合計105名の海外研究者による応募がありました。2ヵ月以上の慎重な審査を経 て、6月23日に開催されたセンター協議員会において、正候補3名、副候補各2名が正式に承認されました。正候補として選ばれたのは 以下の方々です。
氏名 | 所属 | 研究テーマ | 滞在期間 |
D.B. パヴロフ (Pavlov, Dmitry Borisovich) |
モスクワ
工科大学(ロシア史・法講座)/ロシア |
ロシアと
日本の日露戦争期における思想宣伝活動面での対立 |
2007
年6月1日~2008年3月31日 |
A.V. レムニョフ (Remnev, Anatoly Viktorovich) |
オムスク
国立大学(歴史学部)/ロシア |
ロシア内
アジア地域における帝国の政策:19世紀~20世紀初頭の諸思想と行政諸慣行 |
2007
年6月20日~2008年3月31日 |
G.S.スルタンガリエヴァ (Sultangaliyeva, Gulmira
Salimzhanovna) |
アクトベ
教育大学(歴史学部)/カザフスタン |
18世紀
~20世紀初頭の西カザフスタンとウラル・ボルガ地域における帝政ロシアの国家政策 |
2007
年7月1日~2008年3月31日 |
4月から6月にかけて次の2回の専任研究員セミナーが開催されました。
月日 |
発表者 |
報告 |
外部コメンテーター |
4 月28日 | 松 里公孝 | Macro-regional Islamic Politics in the Volga-Ural Region of Russia: Influence of Regional Self-images and Strategies of the Administrations | 北川誠一(東北大学) |
6 月19日 | 岩 下明裕 | 「北方領土問題」に関するアンケート・世論調査 | 結城雅樹(北大大学院文学研究科) |
松里報告は、ヴォルガ・ウラル地域のイスラーム政治を比較検討するという大変野心的なもので、タタールスタン、アストラハン、サラトフ、オレンブルグ、バ シコルトスタン、ペルミの状況が現地調査などに基づいて比較されました。比較の仕方や各地域の位置付けなどをめぐって、議論が交わされました。
岩下報告は、「北方領土問題」に関して2005年におこなったアンケート調査と世論調査をまとめたもので、専任研究員セミナーとしては異例の報告となりま した。調査のおこない方やまとめ方に関する統計学的な問題から、調査結果の解釈の妥当性などの問題をめぐって、様々な意見が出されました。
ニュース105号以降の北海道スラブ研究会、センターセミナー、及びSES-COEセミナーの活動は以下の通りです。
4月27日 | ||
■ | 福田宏(センター) |
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「国民化する身体:チェコのマスゲームとラジオ体操」
(北海道スラブ研究会総会)(記事参照) |
|
6月22日 | ||
■ | M.ヴィソコフ(交際交流資金フェロー、サハリン国立大、ロシア) | |
「19世紀および20世紀におけるロシアによるサハリ ン植民化の経験(ロシア語)」(北海道スラブ研究会) | ||
6月24日 | 第7回東欧中域圏研究会 |
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■ |
横川大輔(北大・院) | |
「中世後期神聖ローマ帝国における『選定侯団』の誕
生」(SES-COEセミナー) |
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6月29日 | ||
■ | G.チェレビッチ(セルビア・モンテネグロ大使館公使)、田中一生(バルカン文化史家) | |
「モンテネグロの現状と文化」(北海道スラブ研究会) | ||
7月8-9 日 | スラブ研究センタープロジェクト合同研究会(京都大学
地域研究統合情報センター・連携研究) |
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■ |
小森宏美(京都大) | |
「90年代以降のエストニアにおける歴史実践」 | ||
■ |
橋本伸也(広島大) | |
「エストニア・ラトヴィアの体制転換と教育改革:ロシ ア語系学校をめぐる最近の動向から」 | ||
■ |
西村可明(一橋大) | |
「移行国における年金改革」 | ||
■ |
仙石学(西南学院大) | |
「東欧諸国の年金制度改革:比較政治学の視点から」 | ||
■ |
吉村貴之(東京外国語大) | |
「アルメニア共和国における漸進的政権交代」 | ||
■ |
S.ペイルーズ(国立東洋言語文明学院、フランス/センター21世紀COE外国 人研究員) | |
"State, Religion and the Secularism Issue in Post-Soviet Central Asia: The Soviet Legacy" | ||
■ |
M.ラリュエル(フランス) | |
"Rethinking the State inRussia: Nostalgia for the Empire and Nationalism in the New Academic Disciplines " | ||
7月15-16日 | 石油・ガスとCIS経済研究会 |
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■ | 志田仁完(一橋大・院) | |
「ソ連強制貯蓄論の再検討:共和国『市場』の観点か
ら」 |
||
■ | 封安全(北大・院) | |
「中ロ貿易に関する両国統計の比較」 |
||
■ | 長谷直哉(慶應義塾大・院) | |
「ロシアにおける財政連邦主義と有資源地域の関係」 |
||
■ | 大野成樹(センター) | |
「ロシアにおける石油・ガスと銀行」 |
||
■ | 服部倫卓(ロシア東欧貿易会) | |
「ロシア・ベラルーシ関係の文脈から見たヤマル・パイ
プライン」 |
||
■ | 廣瀬陽子(東京外国語大) | |
「コーカサスの石油・ガスをめぐる政治・経済問題:
BTCパイプラインの影響を中心に」 |
||
■ | 藤森信吉(センター) | |
「ウクライナの石油・ガス市場の変遷」 |
||
■ | 田畑伸一郎(センター) | |
「ロシアの石油・ガス価格:公式統計の若干の整理」 |
||
■ | 塩原俊彦(高知大) | |
「パイプラインの政治経済学」 |
||
■ | 本村真澄(石油天然ガス・金属鉱物資源機構) | |
「ロシアからの石油・天然ガスパイプライン計画の最近
の動き」 |