スラブ研究センター研究報告シリーズ No.66
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本報告集は、文部省科学研究費補助金・基盤研究B「ロシア連邦ヴォルが中流域6民族共和国エリートの比較研究」(平成10-11年度)の一環とし て、スラブ研究センター冬期シンプジウムの1パネルを借りて開催された研究会「ヴォルガ中流域民族共和国の多角的研究」に提出されたペーパーを所収したも のである。同パネルの司会は袴田茂樹青山学院大学教授、討論者は塩川伸明東京大学教授、西山克典静岡県立大学助教授であった。
ロシア連邦の21民族共和国が興味深い研究対象であることにはいくつかの理由がある。過去十年間についていえば、民族共和国は、ロシア人リージョ ンと比べて、連邦権力が設定する制度的・政治的な枠組みを逃れている度合いが大きかった。(つまり、かなりの程度、勝手なことができた)ため、そのひとつ ひとつが個性に富んだ現代史を提示している。これは、民族共和国を理解するには個別事例に埋没すべしということを意味しているのではなく、むしろ、それら が比較政治上の格好の素材であることを意味しているのである。
第二に、民族共和国の政治状況を知るためには、歴史的、民族学的、また言語上の知識が求められる。学際性は地域学一般の属性であるが、ロシアの民 族共和国は、特に鋭く学際性を要求する研究対象であると言える。とりわけヴォルガ中流域は、フィン・ウゴール、チュルク=イスラム、ロシア=正教の3要素 が複雑に絡み合った空間であり、これを解きほぐす作業は、民族坩堝としてのロシア総体を理解する上でも役立つような知見を与えるだろう。
本報告集が、ロシアの民族共和国、またヴォルガ中流域の諸リージョンへの関心を喚起するきっかけとなれば幸いである。