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大陸棚開発関連の危機管理体制の比較研究: ロシア、ノルウェー、日本
皆川 修吾(北海道大学スラブ研究センター)
2.ノルウェーの危機管理システム
ノルウェーでは1965年に北海大陸棚で石油探査が始まり、1971年に石油産出活動が始まった(2/2/9,
pp.10-11)。その後、ノルウェー海、バレンツ海大陸棚に及ぶ広大な範囲で、過酷な気象条件下にもかかわらず、巨大な産出国(約300カ所の産出油
田から日量3百万バレル強(2/2/9,
p.27))として成長した。大陸棚における石油産出活動の増加に伴い、生産インフラ整備と油汚染による環境問題に対処する機構整備がなされた。後者の必
要性を誘発した最大の事件が1977年にエコフィスク油田で発生した大規模で制御不能に近い油井爆発事故であった。1週間で約15万バレルの油が流出し、
環境汚染の脅威を実体験したノルウェーは汚染防除に対する考え方・対応を根底から変えることになった。
ノルウェーの危機管理機構として、行政執行権のあるノルウェー石油監督局
(NPD: Norwegian Petroleum Directorate)
と国家汚染管理局(SFT: State Pollution Control Authority)がある。
ライセンシー(鉱区権を持って掘削・開発・生産にあたる開発企業=オペレーター)と国家汚染管理局間の調整役を務めるのが石油監督局であり、国家汚染管
理局は環境関連事項についての実質的な監督・監視機関である(2/2/20,
p.58)。つまり単純に言えば、石油監督局が油汚染を未然に防ぐ防止機関であり、実際に汚染したときに汚染処理を管理する機関が国家汚染管理局である。
環境・開発行政機構
ノルウェー石油監督局 (NPD: Norwegian Petroleum
Directorate)
は石油エネルギー省と地方自治・地域開発省の2省から権限を委任されている。同局の開発部に270名、安全対策部に30名、総計300名のスタッフで構成
されている(1998年現在)(2/1/3)。開発活動についてライセンシーに対する直接的な窓口となり、安全性と作業環境それに緊急時の対策などに関す
る法律・規則に従って遂行できる内部管理システムを開発企業(オペレーター)に確立させ、システムが正常に機能しているかどうか監督する。環境保護管理計
画には生産停止後の掘削油井の処理が環境破壊をおこさないよう施す事が定められている(エコフィスク油田にある油井-12カ所-のような古い油井が
1993年5月より漸次退役している)(2/2/9,
p.10)。オペレーターが自らの活動を客観的に監視する自己管理システムとNPDによる二重の監督業務、それにこれら機能の充足性を助長している点にこ
の機構の特徴がある。ライセンスの審査段階、つまりオペレーターの選定段階で諸基準が満たされているか審査されるので、責務の重要性を認識させることがで
きる。
NPDは石油法(資源管理をする石油エネルギー省の根拠法)と作業環境法、それに汚染管理法(大陸棚操業の安全性と作業環境を管理する地方自治・地域開
発省の根拠法)の枠内で、作業活動に関する規則を定めるか、または行政指導することができ、活動評価をし、違反している場合はライセンシー差止訴訟手続き
の通告をすることができる。例えば、事故時の安全性の優先順位を、健康と生命、環境保全、財政上の利害の順であると定めている。これも含めて、他の基準に
従わない場合は、かなり初期段階でNPDと当該オペレーター間で調整し、問題を解決し、これまで実際にライセンシー差止命令を受けた開発企業は皆無である
(2/1/4)。国営石油会社「スタトオイル」は、ライセンス面でも優遇策を受けていたが、1995年以降優遇措置はなく、他のオペレーター同様の厳しい
査定を受け、安全基準を満たすまで、一時操業中止の指導を受けたことがある(2/1/3;
2/1/4)。NPDは独自の監査システムがあり、何時、どこで、何を監査するかはNPDの独自の判断で決めるが、現場検証が通常化している
(2/1/4)。ライセンシーに対し窓口をNPD一本に定めたということは、NPDの監督業務を遂行するにあたり、関連省庁との協調体制を必要とする。
SFT、法務省、健康庁との調整を特に必要とし、また放射能保安庁、海洋局、電話局(現在民営化されたテレノール)、航空局、消防局、電気局、沿岸局、気
象庁とはこれら機関所属の専門家による技術指導を受けている。NPDが設置されるまでは、オペレーターは関連省庁のライセンシーとしてのクリアランスを一
つずつ申請していたため、時間と労力を費やしていただけでなく、矛盾が生じていた(2/2/10)。NPDはライセンシーからライセンス料を徴収する業務
を財務省から委任されている。
資源の合理的利用原則のもとに、NPDは油層からの採取率を高める政策をとっている。例えば、25年前のエコフィスク油田の採取率は平均20%であった
のが、改善を重ね現在では平均50%となっている。操業中の油井の中には油層の構造上採取率を改善することがほぼ不可能な場合もあるが、80%に達するも
のもある。オペレーターが生産コストの視点だけで採取不十分のまま早期に油井採掘基地を退役させることは、国家的見地からみて資源の浪費であり、また放棄
された油井基地が油汚染源にもなる(2/1/3;
2/1/4)。
NPDの年次監督計画は、まず、前年度のNPD監督活動評価をフィードバックさせ、石油エネルギー省と地方自治・地域開発省の最優先政策、開発技術・組
織の傾向、オペレーターの活動業績、事故例、新規および改正関連法案などを配慮し作成されている(2/2/10)。