サハリン北東部大陸棚の石油・ガス開発と環境W

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北川: 要はノルウェーという国がオイルスピルだとか海洋汚染についていつぐらいから関心を持って検討をやり始めたかというのは、何を持って判断するかということにもよりますが、調べて見ると1964年ぐらいからちらほらあるのです。一番大きな要素は、はやり1969年あたりの北極海周辺での石油開発というものがかなり刺激になって始まっているわけです。1974年にはすでにノルウェー各地でさまざまな防除体制だとか防除技術に関する、これもその当時日本には情報がほとんどなくて、日本が関心がなかったというのがあるのでしょうが、日本人が参加をするという事がなかったシンポジウムがかなりの頻度でございました。非常にうらやましいのはそういうシンポジウムに首相が話されたり、外務大臣が話されたり、ともかく政府というものが民間と一体化した形でコンティンジェンシー・プランを提言し、なおかつ具体策について検討し、その形態が恐らく30年以上も続いているということです。そういうものの成果が我々現在目にしている多くのコンティンジェンシー・プランの中に現れているわけでして、私どもがこのような環境問題を騒がし出したのは比較的最近の事ですから、当然ノルウェーが持っているような理念なり社会環境といったものを確立するまでにはかなり時間がかかる。それともう一つ私がいつも絶望的に思うのは、日本の国というのは官と民との差があまりにも激しすぎる。その間の共同作業というのが一切ないことです。

 例えば、一等書記官のポストに石油会社の開発部長がぽんと来てなるというお国柄が外国では圧倒的にある、ノルウェーでもそうですし、カナダでもそうです。じゃあ、日本ではそういう事ができるかというとやはり聞いたことがございません。例えば大学の先生にしても、研究所のあたりは研究部長を兼務するという格好で、開発とアカデミックサイトの連携というのが非常に見事に整っている。大学の先生がたえず社会の要請を受け入れて、いろいろな事を基礎的なレベルでも開発レベルでも研究するという環境が整えられているわけです。日本はどうかというと大学と社会との距離があり、ノルウェーのようなうらやましい社会環境に到達するのは一体あと何年かかればというと、多分20年とかあるいは50年とかだいぶ先の話のような気もします。政治だとか社会の仕組みを変えない限り有効なコンティンジェンシー・プランというのは、私はできないんだと思います。どう考えても政府だけに委ねて初期初動ができるわけないのです。火事と同じでいかに初動作動が重要かというのは誰しも認識されると思うのですけれど、そこに至るプロセスを考えると、たとえば省庁間連絡会議を持っていると、そんな会議をやってどうやって火事が消せるのですかと、火事が起こりましたと、省庁間で集まって一日会議をやって、何かを決めるというようなものではないと思うのです。それぞれががっちり権限を握っていて、お役人というのは自分一人一人に全部権限と範囲が決まっていますから、それを越えて何かやるというのは常に自殺行為になって、咎められるわけです。それは研究所でも同じです。ですからそういうシステムを抜本的に改善しない限り、私どもがいくら研究しても提言しても何の効果もないと、そういう風に思います。

 確かにノルウェーだのロシアの中で問題になっているのは、確かに防除体制ができましたということです。けれども実際には、そのアプリケーションに関してはまだまだ問題がある。例えば、防除システムをどういうルート、どういう環境の中にあってもどういうルートでサイトに移動するかということについてはまだまだ勉強不足です。たとえば、夏場の比較的環境がいい時には逆に点在している防除システムが有効機能するだろうとは誰しもが考えることですが、冬あるいは秋口の非常に海の荒れたシーズンに港から出られない防除システムがあるとします。その時にどういうトランスポーテーションを確保すれば良いのかというところがノルウェーでもまだ研究が進んでいない部分だと私は思います。

 昨年の11月末にノルウェーで北極海航路の会議がありまして、私どもはサハリンが非常に心配ですから、サハリンがらみの話をいろいろディスカッションいたしましたけど、その辺はノルウェーの関係者にとっても今まで大きな事故がないという事が逆に悠長な対応になっている要因になってやしないかという反省はあるのだそうです。やはりどこの国でも大事故が契機になって、何かが発火すると言う事には変わりがない様で、ノルウェーでも同じです。ロシアの方はもっと粗末でして、理念あり、考え方ありという、法律は皆川先生がおっしゃっていたようにありますが、大別すると5カ所ぐらいに権限が分かれていて、どれが最初に初動するのかがさっぱり分らないということになります。オイルスピルの規模によって対応する責任がどこにもないわけです。監督者同士で何かごちゃごちゃ行う心配がある。それとオイルスピルの事故というのは確かにロシア政府内には統計データ―があるのだそうです。けれども陸上でのオイルスピルがはるかに多いそうです。その辺をはっきり言い出すと非常に問題になるので、データ―としては当分開示できないという責任者の言葉ですし、運輸省のイワノフ次官が釧路に来まして、彼が嘆いているのは、防除対策に一番の権限を持っている海運局の予算は減りそうだということです。鉄道省の予算が増えているそうです。ロシアの方は法律もたくさんあるけれども、法体系として非常にすっきりしない。それと実際に油回収船も結構あります。ただエンジンが動くかどうか分りませんという話と、今そのエンジンを動かすための燃料を積んでいませんということもあります。このようなシナリオから考えるというのはちょっと火事を消す作業には間に合わないのじゃないかという気がします。やはり守備範囲が膨大過ぎて、今バレンツに限って言えば、バレンツの方かなりノルウェーを意識して環境汚染防除に対してもロシア側も真剣です。ですからもう少しプロダクトベースでの話しになればロシアの政府の方もかなりの真剣さでさまざまな機材を整えて、防除システムを構築するのは間違いないですが、ただその時にいわゆる各州と連邦政府との収益の取り分の調整というのがなかなか難しい。バレンツもそれなりの難問というのは、やはり地方の州政府と連邦政府との取り分が最終的に決まらないのと、当然の事ながら資金難だからプロダクト支援をといった時に問題になります。そう言う事を考えるとノルウェーの方が先かもしれないという意見もこの前の会議でもありました。以上です。


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