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村上:
だいぶ時間が迫ってきましたので、私の報告は皆川さんと重複しておりますので、簡単にレビューをしていきたいと思います。まず、ノルウェーの石油流出対応の基本的な原則ですが、その法的な基盤になっているのはポリューション・コントロール・アクトという汚染規制の法律です。これは石油に限らず、いわゆる廃棄物その他汚染要素のあるものは全部組み込まれております。この中で特に石油流出で関係あるのは重大汚染の部分です。ここではまず、汚染させた場合、汚染者が支払う義務が原則的に定められているということです。通告の義務です。それからコンティンジェンシー・プラン、つまり危機防災計画を持ちなさいということが定められています。支援の義務です。そして最後に情報を提供する義務ということが盛り込まれています。ポリューション・コントロール・アクトの全文が手元にありますので、必要な方はコピーを後ほど差し上げます。
先ほどから話に出ておりますけれども、民間と地方自治体と政府というこの3つの大きな柱が国家汚染管理局によって調整されているところにノルウェーの特徴があります。特に民間の場合にはどう対応するかというと、製油所であるとか、原油ターミナル、プラットホームという民間の組織が持っている所で、原油が流出した時に対応する、責任を負うということであります。それから地方自治体の場合にはこういう民間ではカバーされていなくて、なおかつ地方自治体の責任を負うべき船積みだとか鉄道・道路輸送、特にガソリンスタンドへのいわゆるタンクローリーなどの系統については地方自治体に責任があります。それから政府につきましては、こういった民間であるとか地方自治体ではカバーできないような事故に対応することになっております。あるいは制度上で対応することになります。この場合、特に重要な問題は国境間の汚染、いわゆる国境を越えて起こる汚染の部分です。ノルウェーでは現在4つの国際協定が批准されています。ひとつはボン・アグリーメント、これは北海の諸国で結んでいるボン協定というものです。第二は北欧諸国との間で結ばれているコペンハーゲン・アグリーメント。第三はノルウェーと英国で結んでおりますノールブリット・プランです。それから我々が特に関心を持っているバレンツ海においてノルウェーとロシアの間で結ばれております、ジョイント・ノルウェー・ロシア・プランというのがございます。現在この4つが有効であるということです。
ノルウェーの汚染管理局は15の倉庫を持っています。政府機関のうち、ミリタリーの動員が考えられています。地方自治体の部分は34の地域に分かれております。この他に民間があります。こういう図式になっているわけです。汚染管理局が持っている15の地域のなかに、先ほどの話しでのホルテンという場所はオスロのすぐ近くの訓練センターがある所です。一番大きなセンターになります。民間、地方自治体とそれから政府にはそれぞれコンティンジェンシー・プランがあります。民間の場合はいわゆる自分たちが起こした事故に対して自らのコンティンジェンシー・プランで対応しなさいという事です。当たり前のことですが。
それから地方自治体の場合、これは先ほども申しましたような地方自治体がカバーしなければいけない部分に責任を持って対応するということです。それから政府もこのコンティンジェンシー・プランを持っております。ポリューション・コントロール・オーソリティーのSFTがこれらを調整するということになるわけです。ノルウェーの制度上の問題ではこういうことですが、ロシアあるいは外国との関係でいきますと、いわゆるクロスボーダーの協力、国境を越えた部分での協力の関係において、先ほど話しましたボン・アグリーメントが有効になります。これは通告、援助、支援の協定です。また、共同の訓練、共同のいわゆる大気中の監視もうたわれています。こういった4つの項目がメインになってきます。それから次にコペンハーゲン協定になりますと、ここも同じように通告、それからアシスタンス、つまり支援です。それから共同訓練。大気に関する監視というものも、大枠として定められています。もちろんそれぞれの中で細かくうたわれていますが、ここでは大きく分けると以上のようになるわけです。それからノルウェーと英国との間の、このノールブリット・プランというのは、スタットオイルのガスをパイプラインでノルウェーからイングランドにパイプラインで供給されていて、ここの部分で英国との関係が非常に深いので二国間協定が定められているわけです。
ロシアにつきましてはジョイント・ノルウェー・ロシア・プランというのがバレンツ海を対象にしてありまして、ここで盛り込まれている要素は通告、支援、それから共同訓練。実際にはこの共同訓練というのが一番大きな要素でございまして、4つの協定の中ではどちらかというと現実的な部分では弱い協定です。まだこのバレンツ海では生産活動をしておりませんので、その部分ではあまり現実味がないという所は確かにあると思います。ノルウェーとロシアとの協力というのは大きく分けて二つございます。実際に動いている協力に関するものがあります。一つはバレンツ海における石油汚染除去のためのノルウェー、ロシア共同プランです。この協定は1994年4月にできていまして、この部分では実際には共同訓練が行われている程度でございまして、よくその実態が分かりません。もう一つの北極海における三国間協力、これはラン・アークRUN ARCと呼ばれていまして、ノルウェー側はノルウェー石油管理局。それから米国が鉱物管理サービスという政府の意向を受けた組織、それからロシアが天然資源省、この3つの組織を中心として協力関係を条約に持ち込もうという事で今進めているわけです。1998年にフィージビリティ・スタディーのレポートがでています。手元にその全文がございます。かなり膨大なものです。ここで指摘したいことは、現実にまだ商業生産されていなくても、将来的なものを見込んでも長い時間をかけて両国間で準備をしているということです。今このバレンツ海では、探鉱が比較的進んでいる所ですけれども、まだ商業生産には入っていない。当初計画では2004年に開発を開始することになっておりますが、ここで設置されている装置が基準に合わないという問題が起こったり、商談自身が進んでいないということもあって停滞しています。さらに石油価格が安くなったなどの条件が重なったために、経済採算性に乗りにくいということから今ペンディングの状態になっています。バレンツ海は埋蔵量の点からみて、ロシア側に比べるとノルウェー側の規模が小さい。西シベリアの北部のネネツ自治管区からヤマル半島、この辺が世界の天然ガスの30%以上の埋蔵量を持っている世界的規模からみても重要な地域です。実際に巨大なガス田が発見されていますが、バレンツ海にはシュトクマノフスコエ鉱床とプリラズロムノエ鉱床の埋蔵量が特に大きくて、ロシア側はガスプロムを中心に開発しようとしているところです。ノルウェー側のレポートによっても、将来的にはむしろノルウェー側よりもロシア側の部分の開発が早く始まるだろうというような見通しを持っていますし、ロシアの天然ガス生産の中心地は 21世紀にはここの部分になるだろうということはおそらく疑いないだろうと思います。
先ほどのこのロシアとノルウェーと米国の共同プロジェクトに関するこのレポートの構成は、あくまでもフィージビリティ・スタディの段階ですが、第1章には自然気象条件であるとか、経済的な特徴といったことが盛り込まれています。第2章には法律的な面、これは皆川さんの方からも報告がありましたが、法律的な側面が書かれております。それから第3章ではモニタリング・コントロール・システムを解説しております。こうあるべきだということが書かれております。第4章は探鉱、開発、保存、環境安全面での規則が盛り込まれています。第5章は要員の安全と保護の問題。第6章についてが流出油の対応の問題で一番我々と関係ある所ですが、緊急事態が起こった時にどうするのかということと、結氷の時の事故にどう対応するのか、どう防除するのかということが書かれています。第7章は環境面の経済メカニズム、特に補償の問題をどうするのかという事が書かれております。そして第8章には結論と提言ということで、こういう点が欠けているのでこうしなさいというような提言が書かれていて、これをベースに将来的にはもっとアクション・プランにしていくんだろうと見うけられます。サハリンに比べ、バレンツ海の方は、将来的にはロシアが本格的に開発すれば相当に大きくなりますが、現段階ではまだ何も開発をしてないわけです。商業生産に入っていないのです。にもかかわらずノルウェーは積極的にロシア側に働きかけて、ロシア側の訓練をしてあげたり、様々な形での協力関係を持っているというのはやはり日本とは違う。日本の場合は開発の現場を持っていないと言う決定的なファクターがあって、取り組み姿勢が違っています。ノルウェー自身、自分のところでの領域内での開発に甘んじないでどんどんとスタットオイルを初め、企業や政府がロシアに手を伸ばして行っているという側面もあるわけです。つまり自分たちの技術や経験をどんどんと売り込んでいくという、商業的な要素もかなり背後に持っているということが言えるのではなかろうかと思います。大体私の報告はこの程度に致しまして、北川先生にコメントなり補足なりをお願いいたします。