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事故が起きた時にどんな気象であるかが、流出した油の行き先を考える上で非常に重要なわけですが、稚内それから網走の年間の風向、風速の出現頻度で、稚内であればだいたい半分から上の方が海から陸に向かって吹く風の場合です。それから網走の場合では斜め右半分がだいたい海から陸に向かって風が吹く場合ということで全体としては実は陸側から海に向かって吹く場合の方が陸域の観測では多いのですけれども、海上部は必ずしもそうとは限らないだろうと思っております。それと陸域であっても海風の方が全くないかというとそういうことはありませんで、強風も全くないかというとそうでもなく、やはり流出した原油は沿岸域に到達しやすい方向として、北西から北東の範囲の風をケースとして取り上げています。それ以外の気象条件については取り合えずいろいろ計算をして、発生時期は10月を想定してあります。想定した10月というのは漁業生産高が比較的多くなっております。しかも北東風が、わりと吹きやすい時期だろうということです。また低気圧がオホーツク海の方に入ってくるといったような状況が起きるということで10月を取り上げたということです。だいたいまとめますと風は北西から北、それから北東の方に向かってのケースを取り上げています。風速は月平均してきますと風速はあまり大きくなくて、だいたい月平均風速で5メートルになっています。最悪のケースで行うとちょっと信憑性がどうかなという気もあったので、風についてはわりと小さい平均風速の5メートルというふうに仮定しております。参考までに気温と水温をみますと気温はだいたい1日の内で7℃から13℃くらいの範囲で平均気温が動き、水温は12℃ちょっと切るぐらいで油流出量は5000キロリットルというふうに事故の想定を組みました。流出した油の方向を予測するには当然海流がどうなるのかというのが大きなファクターになるわけで、海上保安庁の水路部さんが観測された結果を表示しておりまして、それをもとに計算メッシュの中を単純に補完して海流のデータベースをプログラムに装備してありまして、今回はそれをそのまま使っております。ですから実はたとえば流れの運動量の保存とか流量の保存とかいったような水理的な条件を本当は満たさなければいけないんですが、今回はそこまでのモデルにはなっておりません。何故そこまでできなかったかというのは、一つにはまだオホーツク海域の流れを細かく精度よく信頼できるデータがまだ公開されてないというような問題もあってこの様な形になっております。実際、冬期と夏期で宗谷海峡においても流れの様子は違ってるわけですが、今回は冬場と夏場の観測値を平均した流れになっております。ですから海流のモデルというのはまだちょっと精度について問題がある状態なんですが、今回はそれを使ってやったというふうにお含みおきください。
どのような方法で漂流の予測を行ったかということですが、これは石油連盟さんが開発されました油濁拡散漂流予測モデルを使っております。どのような方法でやっているかということですが、実際は漂流の要は、海流とかあるいは潮流とかあるいは風といったもの、外的な力によって油膜オイルスリックが移動していくという現象をいっておりまして、それについては実際の計算はラグラシアンデスクリートパーセル法という要は油を小さいセルに分割いたしまして、個々のセルに対してその運動挙動を計算いたしまして、それを集めて油膜全体の挙動はどうなるのかということを計算する手法をとっております。それから油膜の広がりなんですが、これは漂流が起きる現象としては実際には最初に起こる現象というふうにお考え頂きたいんですが、要は浮力とそれから粘性力あるいは慣性力それから表面張力といったような静的な静水力学的な力の釣り合いによって、全く静穏な水の上に油が出ても広がって行くわけでその広がりをこの様な式で、マッケイの方法を使って計算しているというものです。それ以外にも海面上漂流する油でありますと風化が起こります。蒸発とかあるいは波や流れによって乳化、分散が起きたりいたしますのでそういったこともこのプログラムの中では一応考慮して、蒸発とか乳化が起きますと動粘性係数がだんだん大きくなる、水っぽくなくなくなって固くなっていくということなんですけれども、そういう物成変化も考慮したモデルに一応なってます。
実際に計算した事例について、一番最初のケースで流出点がAです。宗谷海峡の西側で風が北向きの場合です。また風がNNWそれからNWの場合ということで、特徴的なのは同じ流出点であって、しかも風はたかだか秒速5メートルほどなんですけれども、その風向きによって日本海を南下して行ってしまったり、あるいは風向きによっては日本海の沿岸に到達してかなり広範囲に汚染が広がっていってしまう可能性があります。もう一つはもっと驚くべきことには宗谷海峡を渡りましてオホーツク海の沿岸に入りますと、沿岸に沿って南下していく強い流れがございまして、それに乗って一気にどんどん広がっていってしまう、というような形が予測されます。それ以外にも丁度宗谷海峡の東沖のオホーツク海で起きたらどうなるのかということなんですが、それぞれの風向きによりましてほぼ風向きと同じような方向でオホーツク海の沿岸でいろんなところが汚染される可能性があるので、例えばうちは斜里だから関係ないというわけにはおそらくいかないんじゃないかというふうにこういったシュミレーションからも予想されると思います。もう一つアニワ岬で座礁したらどうなるかということなんですが、風によっては北の方から風が吹いてる場合にはおおよそ192時間、つまり8日間くらいですが、一週間程度の期間で風向きによってオホーツク海沿岸のいろいろな場所に到達しうるということがこの中でも分かると思います。今回使ってる海流モデルというのはどちらかというと北海道に下りてくるんじゃなくて北東方向に上がってしまうような海流のベクトルをもったモデルになってしまっていますが、やはり風が絡みますと一気に下りてきてしまうということもあり得るというふうに考えなければならないと思います。次にどんなところが汚染されうるだろうかというのを単純にまとめてみました。オホーツク海上で起きたらどうなるかというもので、これでも吹く風によっていろんなところに如何様にでも行き得るということが分かると思います。ちなみに申し遅れましたが、先ほど流出量が5000キロリットルを想定いたしましたが、そうするとナホトカ号が6000から7000キロリットルぐらいと思われますので、だいたい同じ位の量であるということです。