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先ほど魚と油との輸出の比率関係を話しましたけれど、原油価格が下がっているということで、国家財政に占める石油の割合は、最近では5%ぐらいまで下がってきているということです。北海のノルウェー南西部を中心にして海底油田が開発されてきたわけですが、徐々にトロンダムの北部の方に開発の拠点が移ってきているというような説明でした。井戸を掘った時に、排出される油が少ないという事ですけれども、北海油田でどのくらいの油が排出されるのかという問題ですが、プロデューストウォーターに含まれる原油が81.6%を占めています。石油を汲み上げる時に、当然水も一緒に汲みあがってくるわけですけれど、それを油と水とに分離して、水は当然海に戻すわけですけれども、その戻す水、いわゆるプロデューストウォーターの中に相当の油が含まれている。オフショア油田の中から北海に排出される油の中で8割以上がこのような水に含まれる油だという説明です。数年前にいわゆるパリ・オスロ会談があって、北海の周辺の国が北海の環境保全を進めるために、排出される水の中に含まれる油の比率を40ppm以内におさめようということで取り決めをしたそうです。最近の排出される油の割合ですが、だいたい25ppm内におさまっているという事で、基準値の40ppm以内にあるということであります。ただ比率としてはそうなんですけれども、絶対量としては水に含まれる油分が多いという事で、最近、掘削した井戸の水については、リインジェクションとういことで、油と分離した水とを排水しないで、またそのまま海中に戻してしまうという技術が進んできて、あちこちの海底油田では直接海に捨てないで、海底のほうに再度その水を戻すという事が行われているというようなことでした。これは先ほど皆川先生のお話にもありましたが、オイルスピルの量と件数ですけれども、1991年がピークでどんどんと減ってきております。それで量についても1992年をピークにして減ってきているということで、再注入方法のような事で石油産業の技術も進んでいるのでしょうけれども、こういう形で環境保全に対する考え方というのが徹底してきているということが、このようなデータにも出てくるのではないかと思います。
それで我々は、さっき皆川先生のお話にあったように、ノルウェーの場合には政府と地方自治体とそれから民間のオペレーター会社が連携をして、うまくお互いの力を相互に援助しあっているという事で、一つにはノルウェーにはノスカNOSCAという組織がありまして、この組織はノルウェーの油流出コントロール・アソシエイションということで、先程皆川先生のお話にもありました、SFTという国家汚染管理局とNOFOという、いわゆるこれはオペレーター会社全社加入して作っている民間のいわゆる防除機関ですけども、こういうものがいわゆるノスカという一つの組織の中に統合されているわけです。それ以外は防除資材のメーカーも入っています。民間の防除資機材を扱う会社とそれからNOFOというオペレーターが集まって、SFTといういわゆる政府の国家汚染管理局と一緒になって政府と民間とがノスカという組織を作ってお互いに、技術だとか資材の能力をうまく共有をしているわけです。このノスカを所管するのはノルウェーの環境省ですけれども、環境省の大臣は女性でして、彼女が言っているのは、事故というものは必ず起こるものだということを前提にしてノルウェーは油汚染対策を進めているということで、民間と政府とがうまく手を結んでいるということです。いわゆるSFTという国家汚染管理局が抱えている防除資材基地は全国に14〜15ヵ所あると思いますけれど、その他に民間のオペレーター会社で作っている防除対策組織のNOFOが全国に5ヵ所配置されているということで国と民間とが全国くまなく防除体制を持っているということです。個々の基地が防除の能力の非常に高いものを備え付けているというところです。こういうことで、私たちは当初、漁業者としてはノルウェーの漁業団体だとか、それからNGOの方ですとか、そういう方とお会いをして聞きたかったのですが、かないませんでした。私たちが実際に行ったのは政府の関係ですとか、オペレーターの関係の会社ですとか、そういう所でのお話ですので、言ってみれば一方的な話で、当然、現地の漁業者なりNGOの方の意見を聞くと、まだまだノルウェーといえども、いろいろな問題点はあるのではないのかと、そのへんのことを実際にはバランスを取って聞きたかったのですけれど、5日間というウイークデイの視察ということで、物理的に無理があったわけです。
今回の報告書のまとめに書いてありますように、ノルウェーの考え方というのは、石油資源はあと30年、天然ガスについてはせいぜい50〜60年ということで、石油および天然ガス資源は有限であるということであります。これに対して漁業資源というのは、再生産のしくみをうまく保てば無限に享受できるという考え方が一つあるということです。それから、2つ目は、まさに費用対効果の問題だと思いますが、石油産業から膨大な収益が上がります。先ほどの例から明らかなように、一時は国家収入の2割も占めることもありました。いまでも10%前後であります。いわゆるそれだけの重要な産業であるがゆえに、費用もかけられるということで、この辺がやはり日本と若干違うと思います。それから3番目には、いわゆる国家の防災計画が、日本にももちろんありますけれど、実際のときに、緊急の時にいかに効果的に活用できるとかということを考えていて、国家と地方自治体と民間とがうまく連携をして効果を上げてきているということです。さらにその計画を実行あるものにするためには日ごろの実地訓練というのが必要ですけども、この辺がノルウェーの場合は非常に徹底していまして、ノルウェーとフランスの場合には実際に油を海に放出して、それを防除するという訓練までやっているということで、先程話しました環境省の女性大臣の話の中にも、日頃、実地訓練をいかに効果的にやるかということが防除体制をしっかりするための基本だということを明確に言っております。それから5番目は、先ほどの皆川先生の話にも通じますけども、防除の基本は24時間以内であるということです。これは2.5メートルの波高を条件としても8,000tの流出量を外洋で処理するという方針であるわけです。基本はとにかく沿岸に漂着させないことです。外洋で事故が起きた時にそれをいかに速やかにそこで押え込んでしまうかということです。ですからそれは波高条件が北海でも非常に厳しいのですが、そういう中でいかに短時間で押え込むかというのが、油の流出防除の根幹であるということなのです。遅くとも48時間以内には、8,000tの原油を封じ込める。ご承知のように97年のナホトカ号の事故の時には6,000 t から8,000 tの油が出たといわれておりますけども、それに匹敵する油をこれぐらいの短時間で押え込むことを意味します。フラムという民間会社の方のお話もちょっと聞きましたが、彼らいわく、試験では6メートルの波高でも私たちは何とか防除できますよと豪語していましたけれども、実際に今回フランス沖で非常に大きな事故が起きていますが、果たしてこのような波高の荒波ではノルウェーといえど相当苦労するのではないかと思います。私たち北海道の人間にとって、サハリンからのタンカーが北海道の沖合いで仮に冬にでも事故を起こしたらこんな条件どころじゃないだろうと思います。まさにあのナホトカ号の事件の二の舞いになるということをつくづく感じておりまして、ノルウェーというのは相当こういうものに長い期間をかけてレベルアップをしてきたのだなということを感じています。それから私たち漁業者団体も国には要望しているのですけれども、サハリンの油田についてはロシア政府と日本政府がきちんと防災に関する協定の話し合いをして欲しいと思います。ノルウェーの場合にはロシアとも協定を結んでいますし、ロシアは決してほかの国と2国間では協定を結ばないということではなくて、アメリカとも結んでいますし、カナダとも結んでいます。そういう実例があるのです。日本政府はわれわれの要請に対しては、国際条約OPRC条約の中ではその関係国、2国間なり複数国間で、そういう防災対策のための条約を結びなさいということを提言しているわけですけども、ロシアはOPRC条約を批准していないということで、日本政府が話を持っていってもなかなか乗ってこないというような答弁をしているわけです。だけども現実、先ほどの皆川先生のご説明であったように、ノルウェー政府とロシア政府はきちんとそういう防災協定を結んでいます。やはり事実があるわけで、私達はこれから、なんとしても国がきちんとロシアとの骨格となる枠組みを作ってもらいたいと願っています。そういうことによって初めてロシアの防除体制と日本の防除体制が生かされる形になるのではないかと思っております。今回のノルウェーの視察の中で、こういうような感想を持って帰ってきましたので、これからはここにおられる専門家の皆さんのお知恵なりお力を借りて、我々漁業者サイドとしても、サハリンの油濁対策について大いに進めていきたいと思っています。