セミナー「東南アジアの境界」(1/10)参加記
2014/01/11
2014年1月10日、北海道大学スラブ研究センター大会議室においてGCOE-UBRJセミナー「東南アジアの境界」が開かれました。本セミナーには、北大スラブ研と同じく共同利用・共同研究拠点である京都大学地域研究統合情報センターから、東南アジアの専門家が参加し、東南アジアにおける境界について報告がなされました。
まず、柳澤雅之氏が「大国を利用して生きる−中越国境地域のモン族とベトナム−」と題し、大陸部の境界、すなわち中国とベトナムに挟まれた地域に住む少数民族モン族が、中国とベトナムの変化に対しどのように対応してきたかを報告しました。モン族が住む西北地方は、これまで、ベトナム共産党との結び付きが弱く、また米軍のホーチミン・ルート攻撃に協力してきた経緯や、その焼畑農業が、ベトナムが推進する「定住定耕」政策との間に齟齬を生む等、ベトナムと政治・経済的に統合されていない存在でした。しかし、2000年以降、ベトナムから農業技術が移転され生産性が向上するとともに、地元市場でもベトナム製が中国製に代替されており、物質生活面でのベトナム化が進行しています。ベトナムと一体化しながら、発展するのがモン族の現状といえます。
次に山本博之(CIAS 京都大学地域研究統合情報センター)が島嶼部の境界として、マレーシアの島嶼部、ボルネオ・サバ州で2013年に発生した「スールー王国軍兵士」侵入事件を報告しました。そもそも、大陸部と比べ島嶼部は国境の壁が低く、首都から離れていることもあり、マレーシア政府は国境の管理に無関心でした。一方でサバ州側は、木材業の不振による不況や不法滞在や移民流入に悩まされており、中央政府に補助金、人口調査の実施を求め続けていました。こうした状況下、「スールー王国軍」を名乗る武装集団の侵入がフレームアップ化され、サバ側が「国境」を持ち出すことで、マレーシア中央の関心を惹きつけることに成功した側面が強い、と山本氏は指摘します。しかしながら、イスラム教を国教とするマレーシアが、フィリピン側からの「非文明的」ムスリム武装集団の侵入を攻撃することは、イスラム世界の分裂を招くことにもなります。
両報告に共通するのは、王朝時代に曖昧であった境界が植民地時代に画定され、独立後に国境となった今日でも、辺境部では境界を越えた人・モノの移動が日常的にあること、そして辺境や少数民族は「弱者で中央に翻弄される」というよりは、中央を上手く利用しながら発展を計る強かな存在であることを提示したことです。中央政府の政策だけでなく、境界地域のアクターに着目するアプローチは、境界研究に不可欠なものといえましょう。
なお、今回が、GCOE「境界研究の拠点形成」主催としては最後のセミナーとなります。5年間に渡り、多数の参加をいただき誠にありがとうございました。来年度はUBRJ主催によるセミナーを予定しています。
まず、柳澤雅之氏が「大国を利用して生きる−中越国境地域のモン族とベトナム−」と題し、大陸部の境界、すなわち中国とベトナムに挟まれた地域に住む少数民族モン族が、中国とベトナムの変化に対しどのように対応してきたかを報告しました。モン族が住む西北地方は、これまで、ベトナム共産党との結び付きが弱く、また米軍のホーチミン・ルート攻撃に協力してきた経緯や、その焼畑農業が、ベトナムが推進する「定住定耕」政策との間に齟齬を生む等、ベトナムと政治・経済的に統合されていない存在でした。しかし、2000年以降、ベトナムから農業技術が移転され生産性が向上するとともに、地元市場でもベトナム製が中国製に代替されており、物質生活面でのベトナム化が進行しています。ベトナムと一体化しながら、発展するのがモン族の現状といえます。
次に山本博之(CIAS 京都大学地域研究統合情報センター)が島嶼部の境界として、マレーシアの島嶼部、ボルネオ・サバ州で2013年に発生した「スールー王国軍兵士」侵入事件を報告しました。そもそも、大陸部と比べ島嶼部は国境の壁が低く、首都から離れていることもあり、マレーシア政府は国境の管理に無関心でした。一方でサバ州側は、木材業の不振による不況や不法滞在や移民流入に悩まされており、中央政府に補助金、人口調査の実施を求め続けていました。こうした状況下、「スールー王国軍」を名乗る武装集団の侵入がフレームアップ化され、サバ側が「国境」を持ち出すことで、マレーシア中央の関心を惹きつけることに成功した側面が強い、と山本氏は指摘します。しかしながら、イスラム教を国教とするマレーシアが、フィリピン側からの「非文明的」ムスリム武装集団の侵入を攻撃することは、イスラム世界の分裂を招くことにもなります。
両報告に共通するのは、王朝時代に曖昧であった境界が植民地時代に画定され、独立後に国境となった今日でも、辺境部では境界を越えた人・モノの移動が日常的にあること、そして辺境や少数民族は「弱者で中央に翻弄される」というよりは、中央を上手く利用しながら発展を計る強かな存在であることを提示したことです。中央政府の政策だけでなく、境界地域のアクターに着目するアプローチは、境界研究に不可欠なものといえましょう。
なお、今回が、GCOE「境界研究の拠点形成」主催としては最後のセミナーとなります。5年間に渡り、多数の参加をいただき誠にありがとうございました。来年度はUBRJ主催によるセミナーを予定しています。