2008年度鈴川・中村基金奨励研究員報告会
(科研「スラブ・ユーラシアにおける東西文化の対話と対抗のパラダイム」共催)
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粕谷典子(早稲田大学大学院文学研究科)
イヴァン・トゥルゲーネフ:「筋の欠如」の詩学 |
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〆木裕子(大阪大学大学院言語文化研究科)
ウクライナ語「リドナ・モーヴァ」の多義性とその解
釈 |
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9月16日に本年度の鈴川・中村基金奨励研究員の報告会が催されました。本年度は4人
の方が採用されていますが、今回は粕谷氏と〆木氏のお二方が報告されました。
粕谷氏は、ナボコフやメリメのトゥルゲーネフ論を出発点とし、そこで指摘される「筋の欠如」という特徴に関する研究報告を行いました。従来指摘される「筋
の欠如」は、実は欠陥ではなく、それがトゥルゲーネフ作品の本質をなす表現技法であるという仮説をたて、それをトゥルゲーネフの短編、中編、長編、演劇作
品、散文詩の幾つかを題材に、実証することを試みました。
〆木氏の報告は、日本語では「母語」と訳される、ウクライナ語の「リドナ・モーヴァ(рідна
мова)」という語が表す概念に関する社会言語学研究でした。ウクライナ語だけではなくロシア語も「母語」であることが少なくないウクライナでは、「リ
ドナ・モーヴァ」が多義的となり、解釈次第では矛盾する概念を表しうることを、〆木氏がキエフ大学で行ったアンケート調査を踏まえて示し、国勢調査の際の
「リドナ・モーヴァ」という設問、そしてその語が内包する政治性に対し批判的に問う必要があると結論付けました。
研究報告はそれぞれ30分程でしたが、報告後および懇親会では活発な議論が交わされ、プロフィールを異にする研究者同士が意見を交換できる有意義な時間
となりました。
(野
町素己)
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