日本ロシア・東欧研究連絡協議会
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スラヴィストの「東アジア共同体」、ここに始まる:ソウル大学との合同シンポジウムに参加して 麻田雅文(北海道大学大学院文学研究科博士課程) 本年の2月21日から2日間にわたって、ソウル大学ロシア東欧ユーラシア研究所とスラブ研究センターは「ロシア再興のユーラシア、北東アジアへのインパクト」と題するシンポジウムをソウルで開催した。東アジアにおけるスラブ・ユーラシア研究者のコミュニティを構築する第一歩としてのこの大会の意義については、すでに松里先生が前号の「学界短信」に詳しく記されている。ここでは参加の僥倖を得た一人として大会の印象を書き残しておきたい。 大会はソウル大学のゲストハウスに隣接する会議場で開催された。各セッションはテーマごとに3人の報告者とコメンテーター、司会者がつく形でおよそ2時間のオーソドックスなもの。しかし、時間を超過して熱い議論が闘わされたのがエネルギー資源に関するセッションだった。今やロシアに関心を持つ人たちの目はその歴史や文化・民族・宗教ではなくエネルギー資源に向けられていることをまざまざと実感させられたものだが、これほど国ごとにロシアへの認識が違うことを見せたセッションもなかったと思う。日本の研究者がサハリン2などを事例にしてロシアのエネルギー政策に対し批判的な見解を示すと、各国の研究者から賛否両論のコメントや質問が殺到していたのが一例だ。日中韓がそれぞれ独自にロシアとのエネルギー協力を模索している今、研究者の議論でも「国益」が前面に出てくると議論が紛糾する。エネルギー資源の問題は各国が一致して興味を示す分野であると同時に、そんな危うさも感じたのは深読みだろうか。シベリア鉄道と朝鮮半島の鉄道接続の見通しについての発表もそうだったけれど、日本と比べると韓国の研究者はロシアとの経済協力について楽観的に捉えている印象を抱いた。 これに対して、良い意味でリラックスして聞けたのがロシア文化に関するセッションである。国籍を異にする発表者と聴衆の間でこれほど親和的な雰囲気を醸し出していたセッションはなかったと思う。大げさに言うなら、そこではロシア文化に対する「愛」が共有されていた。各報告の共通点は21世紀のロシア文化に対する発表者達の強い関心だったと思う。SFに隠されたロシアの帝国意識や映画「ナイト・ウォッチ」の受容のされ方などは、最近のロシアの大衆心理の一面を垣間見せる興味深い報告だった。これに対し、私が出させてもらった歴史のセッションでは統一したテーマの必要性を強く認識した。一口にロシア史に関連した題目といっても、軍事・貿易・移民と多様なテーマで発表がなされたことは、歴史という学問の懐の深さを示すものであると共に、「雑学」と揶揄される弱点でもある。聴衆はさぞ困惑したのではと同情する。次回はパネルの趣旨をさらに絞って発表者たちが議論の幅を広げる必要があるだろう。個人的には、ロシア極東におけるアジア系移民の研究では日中韓が手を携えていけそうな感触を抱いたのだが。 ちなみに、大会の発表者と聴衆の比率は合わせて韓国7、日本2、中国1といったところ。 主催国の参加者が多数なのは仕方がない。ただ東アジアに万遍なく目を配るなら、韓国の研究者から指摘があったようにモンゴルや北朝鮮からの参加者も待たれるところだ。ロシア、とりわけ極東からの参加者もあれば、議論がより活発化するのは明白だろう。この地域における研究者の輪が、同心円のように広がってゆくのを願わずにはいられない。なお、来年1月頃には北海道大学で2回目の大会が開かれる予定である。主催するスラブ研究センターが 東アジアの学界にどのように貢献してゆくのか、真価が問われることだろう。 蛇足ながら、招待を受けたエクスカーションについても記しておきたい。といっても、山腹にある大学を降りて街を訪れたのは、大会終了後の3時間だけ。用意されたバスで漢江を渡るときには夜の街に小雨が降るあいにくの天気だったものの、夕食は韓屋という伝統的な家屋の小料理屋で、野菜中心のヘルシーなメニューでもてなして頂いた。料理のおいしさはもちろんだが、オンドルの温もりが先方の心配りを表していたかのようで忘れられない。その後、一行はウルフ先生の巧みなガイドにより迂回して、遊歩道が整備されて話題になった清渓川で降りたり、ソウル駅の旧駅舎を車窓から眺めたりして南山へ。山頂のホテルでお茶を頂いて帰路につく短いものだったが、主催されたソン教授の歓待の精神が身に沁みた。残念ながら訪問の数日前に焼失した南大門は白い壁で覆われており、再建される頃には一旅行者として再訪できたらと思う。もっとも、その前には英語も韓国語もしっかり勉強しておこうと誓った夜だった。 「スラブ研究センターニュース」113号(2008/5)から転載 |
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