Copyright (C) 1999 by
Slavic
Research Center
,Hokkaido University.
All rights reserved.
大陸棚開発関連の危機管理体制の比較研究: ロシア、ノルウェー、日本 1
皆川 修吾(北海道大学スラブ研究センター)
はじめに
1999年7月、サハリン大陸棚石油・天然ガス開発計画「サハリンII」の原油生産が
スタートしたが、原油流出時対策は不透明のままである。大陸棚開発地域はオホーツク海に面し、オホーツク海沿岸のエコ・システムの希少性と脆弱性、流氷な
ど厳しい気象条件、防災・防除のインフラ未整備、環境保全に関する多国間・二国間協定の不在などが指摘されている中、今後、開発計画が「サハリンII」か
ら「サハリンI」「サハリンIII」に進展すれば、原油生産量が段階的に増え、それに伴って原油流出の危険性も増えることになる。
本稿は、比較的歴史は浅いが信頼度が高いノルウェーの北海やバレンツ海での油汚染管理システムを参照し、オホーツク海沿岸地域での排出油防災・防除に関
するロシア側の対策・対応、および日本側の対策・対応を検討し、日ロ両国の対策・対応の問題点を指摘した。本文では、これら3国の危機管理体制を限られた
枚数で大局的に把握できるよう、詳細な資料をできるかぎり本文に添付せず参照資料としてその一覧表のみを文末(
別添3参照
)に付けた。
原油流出の危機管理には流出事故防止策と事故後の対策が含まれるが、危機管理の条件として、まず法規範の整備と、それら法規範を根拠に、開発当事者およ
び関係諸機関が危機管理のインフラ整備を必要とする。同時に、環境保全に対する文化を必要とし、危機管理のあらゆるプロセスでその度合いが反映される。
危機管理対策を実行するには、運営組織、その役割、運営に関する権利義務、意志決定プロセス、事故時の指揮系統と指揮権、フィードバック系統などの確定
を必要とする。ここでは、これらを総称して危機管理システムと呼ぶことにするが、システムの内容如何で危機管理能力、すなわち限界が自ずから推定できるで
あろう。危機管理の必要性の度合いにより、システム自体が変化することも考えられるが、そのプロセスでは流出事故の実体験、費用対効果比、環境保全文化な
どが大きく影響するであろう。従って、研究対象としては危機管理システムとそれを取り巻く政治・社会・経済環境および国際環境ということになる。