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大陸棚開発関連の危機管理体制の比較研究: ロシア、ノルウェー、日本
皆川 修吾(北海道大学スラブ研究センター)
汚染防除対策・対応の公共性
「環境監査に関する」連邦法(第5条から19条まで環境監査における「市民と社会団体の権利、社会環境監査」)は、国が適正と判断する前に、環境監査法
人(定款上市民団体)によるアセスメントが保証されている。ただし、同法では、対象となる物件に対し、住民の意見を聞いて提出するアセスメントに反映させ
なければならないと定められているが、どのような方法で住民の意見を聞き、どのように反映させなくてはならないかの明確な規定を欠いている(1/1/6,
p.11)。事実、サハリン州では環境アセスメント以前の段階で、市民による資料の閲覧,対話集会での市民の意見の陳述がなされたが、住民の専門知識の欠
如から形式に流れたといわれている。よりよい方法として今後は、環境評価ができるエコロジー専門家に依頼して住民が不安に感じていることを住民の意見とし
て提出するなどの改善がなされる模様である(1/1/6,
pp.11-12)。
環境保護関連NGOの活動については、本研究調査の赤羽・シチェルバコーワ班の研究なので、ここでは割愛するが、州政府のこれらNGOの活動に対する態
度は必ずしも好意的でなく、財政的な理由から開発優先指向を強めている(1/3/1)。ロシア国内のNGOのみならず、国内外の世論に訴えるため直接行動
に出る国際的な環境保護団体「グリーンピース」などがサハリン大陸棚開発に当初から抗議し、注目を浴びている。興味深いのは、「グリーンピース」を含む、
国内外6つのNGOが連名で、客観的な調査結果を基に、サハリン・エネルギー・インベストメント社が作成した「サハリンII油流出緊急防災計画」
(1998年9月作成・/2/9参照)のコメント(1999年3月・/2/10参照)を公表していることである。内容は、当計画の不備(資機材の不備、ロ
シア国内環境関連法に抵触、流氷時の油流出防除計画の欠如など)を指摘し、改善策を求めるものであり、開発を全面的に否定しているものではない。環境保護
団体の殆どが天然資源の枯渇、すなわち開発に原則的には反対しているのであるが、開発が既成事実となった段階では、開発地域住民の利害も絡み、環境保全開
発の原則が主張されている限り、真っ向から反対していないことが文面から察することが出来る。この批判文書は当開発の融資元である3つの国際融資機関
(Overseas
Private Investment Corporation-OPIC; European Bank for
Reconstruction and Development-EBRD; The Export Import Bank of
Japan-EIBJ)に送られ、指摘した諸問題に改善がみられない限り、同計画を承認しないよう求めていた。国際融資機関から『これら批判文書はサハリ
ン・エネルギー・インベストメント社に本来直接提出され改善策を講ずるよう要求されるべきものであるが、我々としては、「サハリンII油流出緊急防災計
画」は専門家の調査により妥当との判断から、すでに同社に対し1億3千8百万ドルの融資をした』との回答があり、改善が見られないままに終わった。融資財
源の出口を塞ぐのが最も効果的な理由からこれら国際融資機関に宛てたわけであるが、これら融資機関の財源は国税であり、これら機関の融資は公の利益に適う
ものでなければならないというNGOの理念が、この行動の背景にあった模様である(1/3/1)。また、これら3つの国際金融機関の内、EBRDが環境
チェックを行うことになっており、次回の融資には、環境チェックをないがしろにできない圧力にこの批判文書はなったであろう。今のところオペレーターから
肯定的な反応はないが、環境NGOの監視機能は、少なくとも地元住民へ、または国境を越えて現地の適正な環境情報を適宜提供しているかぎり、政治プロセス
にそれら情報が生かされる可能性はある。