ITP International Training Program



異種格闘技の楽しみ

中村 真

(第3期ITPフェロー、オックスフォード大学に派遣予定)


 真駒内で開催された英語合宿に参加して最も良かったのは、毎日の授業や課題に取り組むことを通して自身の今後の研究方針を明確にすることができたことである。こうした実感は、通常の語学講座を受講したところで決して持ち得なかったことと思う。

 博士論文の公開試問の直後に開催されたということもあって、わたしは事前課題として課せられていたペーパーを完成できなかった。そのため、先生方の講義や実習内容を取り入れた原稿を授業の合間を縫って短期間で書き上げ、それに基づいて「話す」練習を行うしかなかった。結局、6日目の研究発表では、全篇を「話す」ことはできなかった。全篇の3分の2くらいを「読み」、残り3分の 1を事前に用意したメモに基づいて「話す」ことが精一杯という結果に終わった。とは言え、毎日の実習や研究発表そして先生方からいただいた助言を通して、わたしの話し方や所作は英語圏で学会発表を行う際の「スタイル」として鍛え上げるに値することを知った。

 また、授業中に課せられた実習や休憩時間にいろいろな方と交わした何気無い雑談を通して、スラヴ諸地域における文物や世界各地における国民国家の問題に取り組む際のさまざまな視点を知り得たこともまた、貴重な収穫だった。まったく異なる学問領域の研究者の間でも、研究対象や方法の間に共通性がいろいろと存在することに気付かされた時には、思わず快哉を叫んだ。地域研究という「異種格闘技」の場で繰り広げられる言葉のやり取りの面白さを初めて知った瞬間だった。



 もちろん、今回の英語合宿にも改善すべき点はあると思う。最大の問題は、日程である。もう少し長い目に設定した方が良かったかと思う。研究発表に向けた talk の技術を修得するための実習に偏ってしまい、ペーパーを書くための実習が無かったことが残念だった。研究発表における talk の技術とペーパーにおける writing の技術との間の違いは、両者に関する実習を受けるとより一層理解できるのではなかろうか。だが、学術的な場での英語運用能力を高めるための実践的な方法を学ぶことを通して、同世代の研究者と知り合えたとともに、今後の研究の間口を広げて他の研究者とも問題を共有するための指針をも見出し得た――という点で、真駒内で過ごした一週間はわたしにとってきわめて有意義なものだった。



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