ITP International Training Program



エンターテインメントとしてのプレゼンテーション

住家 正芳

(北海道大学スラブ研究センタープロジェクト研究員)


 英語に限らず日本語でもそうだが、シンポジウムや学会での口頭発表というのは、準備した原稿を読み上げるものだと、私は思い込んでいた。そういう発表ばかり見聞きしていたし、自分でもそうしていた。ほんの数例、英語圏の発表者が原稿を見ずに聴衆に語りかけるスタイルをとっているのに接した際も、Macを使っている人なので、スティーブ・ジョブズにでも感化されたのかと思った程度だった。


 英語キャンプはそんな思い込みが叩きつぶされることから始まった。考えてみれば当たり前の話だが、準備した原稿を読み上げるだけなら、なにもわざわざ膝つき合わせて集まる必要はない。その場に居合わせた人たちが楽しんでこそのシンポジウムなり学会なりなわけで、「プレゼンテーションはエンターテインメントだ!」というGreg先生の言葉に大いに納得し、「笑わせてなんぼや!」と勝手に自分の中で翻訳して、いざ準備にかかったものの、一週間という限られた時間では、できることも限られていた。


 まず、あらかじめ準備していた原稿を、「語り」に適した文体に変えなくてはならないが、「文は短く」「関係詞はなるべく少なく」と注意しながら自分の原稿を読み直すと、いかにダラダラと長たらしく、やたらと関係代名詞を使っているか痛感させられた。痛感しすぎて痛覚が鈍った頃にようやっと構成を考え直すことになる。最初に疑問を提示し、その謎解きとして内容を構成するなど、聞き手を自分の話に引き込むための工夫を施すわけだが、内容に合ったうまい工夫がそうそう簡単に思いつくはずもなく、自分がいかに面白味の無い人間であるか暗澹としてきた頃には、最後の模擬シンポの日になっていた。本来なら発表内容を完全に頭に入れて臨むべきであったが、私はそこまでたどり着けず、結局、あんちょこを見ながらの発表となってしまった。


 私には、せめてもうあと一日あればと思えたが、その分、中身のつまった合宿だったということでもあり、合宿の後も引き継ぐべきさまざまな課題を与えてくれたことに感謝している。



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