ITP International Training Program



「渡りの船」の英文セミナー

石野 裕子

(津田塾大学国際関係所研究員)


 博士論文の内容を英語論文にしようと悪戦苦闘していた冬休みに、スラブ研究センターの長縄氏からITPの英文セミナーの話をいただいたのは、まさに「渡りに船」の申し入れであった。早速、執筆中の論文の序章と1章にあたる部分を事前提出したのだが、セミナー直前に非常に細かい添削がなされた校正原稿が戻ってきて、自分の英語力のなさに少し落ち込んだままセミナー当日を迎えた。29日の初日の午前中は、エネルギッシュなPaul Stapleton先生によるGenreとDiscourseのセミナーを受けた。文章のポイントとなるフレーズの使い方や強調したい文章の使い方が非常に参考になった。午後からはおだやかな風貌のAnthony E. Backhouse先生によるLanguage systemやOrthography、Grammar、Vocabularyの指導を受けた。ここではセミコロンの使い方といった基本的なことから、より論文らしい動詞の使い方を教えていただき、自分がよく間違うポイントが確認できた。両先生ともどのような質問にも丁寧に答えてくださったせいもあり、参加者は積極的に質問をぶつけることができた。夕方からはイブニングセミナー"How to get published in English"が開催された。すでに英語論文を提出された経験者からの本音トークが飛び出して、英文雑誌への投稿意欲を刺激してくれたセミナーであった。
 2日目の午前中は事前に提出し、添削済みの英文を全員でチェックし、参加者に共通する間違いを確認した。なぜか最初に私の英文がスクリーンに映し出され、かなり焦ったが、参加者全員の添削された英文の間違いのパターンをみんなで確認することで、日本人特有のミスを見直すことができた。 午後からは個人面談の時間が30分設けられた。個人指導してくださったPaul Stapleton先生は、この日も大変エネルギッシュで、30分では時間が足りないくらいであった。正直、1日先生を「貸し切り」にしてほしいくらいであった。夕方からの"How to get published in English"第二弾セミナーは、実際に編集に関わっている外国人研究者の方々から論文を出す心構えから具体的な戦略まで詳細に教えていただいた。このセミナーも大変有意義であったが、3日目のワークショップのゲストスピーカーでもあったデューク大学のHo Engseng教授の英語論文を書くための戦略についてのお話は非常に参考になった。板書を写し取ったノートでは飽きたらず、帰京してからタイピングしてプリントアウトしてしまったほどである。
 私は、19世紀中葉から両大戦間期にかけてのフィンランドのナショナリズムの変遷に関心を抱き、なかでも国内・国際的な文化・学問的動向との兼ね合いに注目し、研究を進めてきた。博士論文では19世紀のフィンランド民族覚醒期に編纂された叙事詩『カレワラ』の研究とロシア(ソ連)への膨張思想とも見なされた「大フィンランド」思想との関係を取り上げた。今後はこのセミナーで学んだことを生かして、まずは博士論文の内容を英語論文にし、海外雑誌に投稿したいと思う。
 セミナーでは、始まる前から最後までスラブ研究センターの越野氏に大変お世話になった。また、松里先生、長縄氏を始め、関係者の皆様に感謝を申し上げたい。さらに、初めてお会いした参加者の皆さんにも大変学問的刺激を受けた。参加者の皆さんにも御礼を申し上げる。


[Update 12.09.13]

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