まず、自らの研究分野の‘Genre’を知ること
篠置 理子
(大阪大学言語文化研究科 博士前期課程)
二日間にわたるライティングセミナーは、両日ともに、日本人が英語論文を執筆する際に役立つ実際的な技術が盛り込まれたものであった。また、普段の学生生活の中で、英語を「第二外国語」的に捉えてきた私にとって、学術言語としての英語の重要性を再認識する良い切っ掛けとなった。
もちろん、これまでの私のマイペースな学生生活の中でも、英語でアカデミックな文章を書くための作法を教わる機会に、全く恵まれてこなかったわけではなかった。定冠詞や時制の用い方の注意から、同一語彙連用や一人称使用の回避、論文の構成の定型まで、一通りのことは、形式的ではあれども、一応習ってきたつもりでいた。しかし今回、添削用論文の執筆とセミナーの受講を通じて、まず気付いたことは、それらの、知ってはいた、心掛けてはいた基礎的なチップスを、自分が如何に体得してはいなかったか、とういうことであった。
セミナー一日目に行われた、Stapleton、Backhouse両先生によるプレゼンテーションは、それらの英論文執筆における基本的落とし穴について、その性質と回避方法を再学習させてくれただけでなく、新たな角度からの示唆を与えてくれた。特に、今まで自分が、ある一つの落とし穴を回避しようとせんばかりに、別の落とし穴に嵌まってしまっていたこと(例えば、一人称の使用を避けたいがために、回りくどい受動態や擬人化表現を使用する羽目になっていたこと、等)に気付くことが出来たのは幸いであった。個別的な誤りの防止に躍起になるだけではなく、それぞれの研究分野のジャンル(genre)や投稿雑誌の性質を念頭に置いて、戦略的に執筆を進めることの重要性を学ぶことが出来た。
二日目には、受講者それぞれによる自らのミスの傾向の報告の後に、個別指導が行われた。既に海外の雑誌への英論文投稿に取り組んでこられた方々でも、上記のような諸々の間違いの防止に腐心されていることを知り、改めて、非母語で学術論文を書くということの難しさに恐れ入った。しかし同時に、皆様が自らの誤りや苦労について語られる際の闊達とした口調は、何よりその挑戦の楽しさを物語るものであった。一日目の講義や、午後の個別指導で頂いた具体的なアドバイスを活かしながら、私も今後、その苦労と楽しさを少しでも味わっていければと思う。
今回、日本語の修士論文すらまだ書き終えていない分際でありながら、このような、英論文執筆と投稿についての実践的セミナーに参加する機会を頂き、心から感謝している。他の受講者の方々とのレベルのギャップは予想通りであったものの、皆様気さくに接して下さり、セミナー自体の進行も、とても親切で分かり易いよう工夫されたものであった。北の大地で得たこの収穫を、私自身いかに活用し、大阪の他の学生たちと共有していくか。新たな課題と楽しみを得ることが出来た、素晴らしい二日間であった。
[Update 12.09.13]
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