|
デイヴィス・センターでのラウンドテーブル“Eurasianism: Genealogies, Evolutions and Interpretations”を組織して浜 由樹子(第2期ITPフェロー、ハーヴァード大学デイヴィス・センターに派遣中)[→プロフィール] 2010年2月1日に、ITPの課題の一つであった研究会を開催した。 ちょうど、初出勤日に自己紹介をかねてファカルティの方々の研究室にご挨拶に回った折、私が自身の研究テーマを告げると、複数の方々が挙げる研究書があった。著者のマーリーン・ラリュエル氏とは以前から交流があったので、センターでの関心の高さに鑑みて、彼女を軸に据えられないだろうかと考えるに至った。 [左から]Kelly O'Neill,Marlene Laruelle,Sergey Glebov,David Schimmelpenninck van der Oye ここから先は、会のコンセプトとプログラムの内容を練る作業。スピーカーには歴史的アプローチを取る方々が多かったことから、Historians’ Seminarの枠を分けていただくことになった。そのため、今度は相談相手が、司会をお引き受けいただいたケリー・オニール氏に交代した。私がオニール氏から学ばせていただいたことは実に多い。まずは、会の基本的なコンセプト(ワークショップ、セミナー、ラウンドテーブル、学会パネル等のそれぞれの性質と違い)を一から教えていただいた。組織の手順、タイトルの付け方、成功のための秘訣、宣伝の仕方などを、多忙を極める彼女の短い昼休みに、ランチを取りながら(そして私はひたすらメモを取りながら)ご教授いただいた。これまで色々な学会やシンポジウムに列席してきたように思うが、自分がそれを組織者の視点で捉えた経験がなかったことを痛感する時間であった。中でも印象深いのは、「成功の鍵は、組織者が明確なヴィジョンを持っていること、オーディエンスには誰にいてもらいたいかを意識すること」という言葉である。そして、オニール氏との相談の結果、一つのテーマについて、複数のスピーカーが異なる視点から報告をするラウンドテーブルの形式を取ることを決めた。 プログラムの組み方には多少工夫をこらした。まず、3人のスピーカーとは、報告内容について何度もメール上で協議をした。それぞれの方が2、3ずつ報告内容を提案して下さり、それをもとに私が提案を返すというやり取りが数往復した。意識したことは、ラウンドテーブルである以上、各々の報告は自由なものでありながらも、オーディエンスが理解しやすいような全体テーマが存在すること、そして可能ならば、各々の報告に接点を持たせ、「バトンタッチ」が円滑に運ぶようにすることであった。もちろん、これは3人のスピーカーの方々が私のやり方に理解を示し、協力して下さったからこそ可能だったことである。何度かのやり取りの末、二つの全体案を作成し、オニール氏と再度検討して最終案を決定した。「キャッチーなキーワードを含む、魅力的なタイトルを付けること」という教えには納得したものの、結局キャッチーな言葉を見付けるのが下手な私は、オニール氏の案をそのままいただいてしまったのであるが。 そこから先の事務手続きと作業(会場の予約、報告者への連絡、メーリングリストを通じた通知とリマインダー、HPへの掲示、ポスター掲示、当日の会場設営、会計、その他諸々の手続き)は、デイヴィス・センターの優秀なスタッフの方々のご支援で、驚くべき速さと効率で行われた。「窓口が一つの方が楽だから」というお言葉に甘えて、私自身はほとんど何もしなかったに等しいと思う。デイヴィス・センターが出してきた研究成果は、トップレベルの支援体制に支えられているのだと、ここに来てからしばしば感じる。 当日は、月曜の夕方という、比較的人が集まりにくいといわれる時間帯であったにも拘わらず、大盛況であった。参加者が部屋に入りきらず、椅子を運び入れなくてはいけないほどだった。参加人数はおおよそ35から40名。当該テーマに対する関心の高さに改めて驚かされる人数であった。デイヴィス以外の複数の研究所や、歴史学部のファカルティのメーリングリストにも案内を流したことが功を奏してか、他の研究所からも何人もの方々が聞きにいらして下さった。また、リチャード・パイプス氏やジョン・ルドン氏といった、既にセンターを引退された方々も足を運んで下さり、議論を喚起して下さった。 私の当日の役割としては、テーマについて、5から10分程度の導入のスピーチを担当することにした。このテーマがなぜ取り上げるに値するのかという説明に併せ、それぞれの報告の、研究史における位置づけをごく手短に紹介したものである。本来であれば私自身も報告者として加わるべきだったのだろうが、先述の通りの嬉しい誤算で、全員に即ご快諾いただけるとは予測していなかったため、自身の報告は「バックアップ」のつもりでいたのである。ただ、導入のスピーチも、短い時間で全体のマッピングをするという意味では必ずしも簡単だったわけではなく、それなりの時間を費やして準備をした。 組織者の立場としては、プログラムの組み方が思った以上の効果をみせたことが印象的であった。3人の報告がちょうど少しずつオーバーラップしており、質問がその部分に及ぶと3人各々がそれぞれに答え、さらに議論が進む、という相乗効果が見られ、実に白熱した質疑応答となった。 大方の予想通り、時間の枠内では議論は尽きず、しかし会場に満ちていた満足感は疑いのないものだったと思う。実際、次の日センターでは、会う人会う人に「昨日の企画は素晴らしかった」と声をかけていただいたし、スタッフの方々のもとにも同様の感想が多く寄せられたと伺っている。 時間的には決して長くないラウンドテーブルであったが、一からコンセプトを練って企画運営するという、駆け出しの研究者にはなかなか得がたい経験であり、これを通じて本当に多くを学ばせていただいた。貴重な機会を与えていただいたことに心からお礼を申し上げたい。
Roundtable “Eurasianism: Genealogies, Evolutions and Interpretations.” |
Copyright ©2008-2010 Slavic Research Center | e-mail: src@slav.hokudai.ac.jp |