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オックスフォード留学を経て溝上 宏美(第2期ITPフェロー、派遣先:オックスフォード大学 聖アントニー校ロシア・ユーラシア研究センター)[→プロフィール] 2009年6月25日より2010年3月30日まで、北海道大学スラブ研究センターが実施するインターナショナル・トレーニング・プログラムの下でイギリス、オックスフォード大学セントアントニーズ・カレッジに留学しました。オックスフォードでは、研究活動並びに将来的に国際的に研究を発信していくための基礎力をつけるための訓練の一環として、英語論文の執筆、国際会議の開催、英語での研究報告、イギリスを始めとする国外の研究者との交流といった活動を行いました。以下、オックスフォードでの経験と、それが現在、および今後の研究活動にどのような形で結びついている、そして結びついていくのかについて、簡単に記したいと思います。 まず、英語論文に関しては、現地の夏季休暇期間にあたる6月末から9月までの間に二本の執筆を行い、うち一本については9月末に現地のインフォーマル・アドバイザーの指導を受けて修正し、10月末にイギリスのジャーナル、Historical Research に投稿しました。残念ながら掲載には至りませんでしたが、執筆及び修正の過程で内容に関してだけでなく、字体や注釈のつけかたなど日本とは異なる英語論文の体裁に関しても学ぶことができ、投稿は貴重な経験となりました。この論文を元に、今年7月末に行われたICCEESでの報告も行っており、今後、レフリーの指摘と報告で得た指摘も入れて修正し、他の雑誌へ再度投稿を行いたいと思います。もう一本については、2009年9月にロンドンで開催される予定であったワークショップでの報告のために準備しておりましたが、残念なことに報告者が集まらず、研究会自体が休止となったため、報告はできませんでした。ただ、この原稿自体は無駄にはならず、この原稿は、その後の研究の進展を反映してかなり加筆修正することになったものの、2010年1月に開いた国際会議における報告原稿の元となりました。 国際会議については、9月から本格的に準備を開始し、企画から運営まですべてを行って、2010年1月18日に所属しているセントアントニーズ・カレッジにおいて Immigration and National Identity in British History–Europe, Empire and Commonwealth と題して開催しました。会議における報告者は、派遣者および派遣者が直接連絡をとって報告を依頼した2名のゲストスピーカーに加え、アメリカの人文系ウェブサイトH–netを通じて行った公募によって選抜した3名の報告者(うち1名はポーランド、1名はアメリカから参加)の計6名となりました。日頃から参加しているセミナーやカレッジの食堂で出会った研究者、また、以前に参加した学会やワークショップの主催者といったつてを頼って宣伝を行っていたこともあり、当日はオックスフォードの様々なカレッジから25名ほどの方にご参加いただきました。国際的に報告者公募を行ったこともあって、この会議開催は、派遣者が日本国外の研究者との人脈を築くうえで多いに役立ちました。なお、日本とは習慣も異なるイギリスでの会議開催に関しては、インフォーマル・アドバイザーから助言を受けただけでなく、7月、9月にイギリスで開かれた学会やワークショップに参加することによってそのノウハウを学ぶ機会を十分に得ることができました。国際会議開催については、先に書いた「オックスフォードでのワークショップ Immigration and National Identity in British History–Europe, Empire and Commonwealth を組織して」で詳細に記しておりますので、ご参照いただければと思います。[click] 10月半ばから12月半ば、1月半ばから3月半ばの学期期間中は、オックスフォード内外からの研究者を招いて開かれるセミナーや派遣者が専門としている歴史学部の授業に出席しました。特にセミナーに関しては所属していたセントアントニーズ・カレッジが非常に国際色豊かなカレッジであったこともあり、スラブ・ユーラシア地域や派遣者が主に専門としてきたイギリスに関するものだけではなく、インドや中国、中東地域に関するものにも参加することができ、視野を広げることができました。 その他、カレッジの休暇期間には、イギリスでの長期滞在という絶好の機会を生かし、ロンドンにあるNational Archive, Women’s Libraryの他、ウォーリック大学のModern Record Centreや、ウィルトシャーの資料館に通い、史料収集を行いました。ここでの研究成果は、今年6月に東京で開かれた国際ワークショップの場で‘English Women and Perception of Multi-Ethnicity: the Women’s Institutes and Post-World War II Immigration in Britain’と題して報告する機会を得ました。まだ始めたばかりの研究ではありますが、東京での国際ワークショップで新たにつながりもでき、日本での共同研究についてはすでに打ち合わせが始まっており、オックスフォード留学を期に、思わぬ形で研究が発展しつつあります。イギリスでつくられた人脈と日本での人脈をつないで、将来的には共同で研究をすすめていけたらと考えています。 今回の派遣における最大の成果は、国際会議の開催です。10カ月という短期間での会議の開催は負担の重い課題ではありましたが、会議の開催を通じて、研究面で刺激を受けただけでなく、欧米における会議開催のノウハウの習得、英語での事務運営能力の向上、現地の研究者との関係構築といった無形の成果を得ることができました。先にふれた今年6月に東京で開かれた国際ワークショップは、オックスフォードで開いたワークシップでWendy Webster博士と知己を得たことが開催のきっかけになりました。論文については、派遣期間中にイギリスの学術雑誌に掲載に至らなかったのは残念ではありますが、10カ月の派遣期間中に英語論文の書き方を学んだだけでなく、優秀な校正者も見つけており、これらを生かして今後挑戦を繰り返し、掲載にこぎつける所存です。 今後は、オックスフォード滞在中に集めた史料や習得した英語力、英語論文の執筆法を活用し、欧米のジャーナルへの掲載を目指して論文を投稿するとともに、国内外において英語での報告を行い、研究成果を世界に発信していくことが、貴重な機会をいただいて留学させていただいた私の使命であると思います。イギリスで得た国際会議の開催のノウハウを日本の他の研究者にも伝えていくことで、私の経験が役に立てば幸いです。 |
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