ITP International Training Program



ジョージ・ワシントン大学での10ヶ月間


任 哲

(第2期ITPフェロー、派遣先:ジョージ・ワシントン大学 欧・露・ユーラシア研究所)[→プロフィール




 -出張中の活動概要-


2009年10月から2010年7月末までの10ヶ月間、北海道大学スラブ研究センターが実施するインターナショナル・トレーニング・プログラムの下でジョージ・ワシントン大学のエリオットスクールにて在外研究を行った。受け入れ先である欧・露・ユーラシア研究所(IERES)は主にロシア、東ヨーロッパ及び中央アジア地域を研究対象とする組織で、政治学、歴史学、国際関係といった社会科学分野における優れた専門家が集まった場所である。現代中国研究を専攻とする私にとっては非常に新鮮な環境で、分野に束縛されず自由な研究生活を送ることができた。

10ヶ月の滞在期間を振り返ってみると、主に三つの期間に分けることができる。10月~12月の適応期間、1月から4月までの授業聴講期間、5月から7月まで夏季研究期間である。ここでそれぞれの期間における活動内容を簡単に紹介しよう。




適応期間(10~12月)の最大の課題は英語力向上であった。ITPの課題である英語発表、英語論文、会議組織すべてに欠かせないのが高い英語能力である。しかし、訪問研究員の身分では大学の英語クラスを聴講することができないので、自費で学外の語学学校に2ヶ月間通った。2ヶ月間の集中講義は語学の壁を乗り越えるにはほど遠いが、ある程度の自信につながる。年末になると、ジョージ・ワシントン大学、ジョージタウン大学、SAIS(Johns Hopkins)、Woodrow Wilson Center、Brookings Institutes、East West Center等の研究機関では多くの研究集会が行われるので聴講で忙しい時期であった。初めてのアメリカ滞在である私にとっても、新しい環境への適応は意外と順調であった。




授業聴講期間(1~4月)においては、ITP事業の一環である英語発表と研究集会の組織、そして授業聴講が主な課題であった。英語発表と研究集会の組織については昨年度の活動報告で述べたので、ここでは授業聴講の経験について述べたい。春学期に聴講した授業は中国研究が2コマ、国際関係(東アジア)が1コマ、ユーラシア研究が1コマで合計4コマである。感想から言うと日本の大学院授業よりはハードで、リーディングが多く、意見交換がとても活発的である。特にユーラシア研究(担当教授:Henry Hale)の授業は週ことに数百ページのリーディングと質問項目が出され、授業中は先生による講義はなく終始議論が続く大変ハードなものであった。2月の後半にはフィラデルフィアで行われたAASの年度大会に参加し、多くのアジア研究者と意見交換をするができた。




夏季研究期間(5~7月)では、授業がなくて自分の研究に集中できる時期であった。エリオットスクールにあるSigurセンターに頼まれたPolicy Briefを始め、英語と日本語の論文を書くようになったのも主にこの時期であった。大家さんであるHope Harrison先生が6月初めにサバティカルを終え帰国したので、新しい宿探し、引越し、帰国準備等で最後の期間は落ち着かない日々が続いた。



 -課題・成果及び今後の展望-


初めてのアメリカ滞在だったので、試行錯誤の中やり残したことはたくさんある。何よりも悔しいのは英語論文を完成して投稿することが出来なかったことであろう。大きな課題でもあるが諦めず来年度の国際研究大会に向けて着々と準備を進めたい

10ヶ月という短い期間ではあったが、成果は大きい。渡米するまで「中国人が日本で中国研究をする意義」についての疑問が大きかった。アメリカで自国研究をする多くの外国人研究者も似ている問題点を抱えており、交流を通じて自分なりの答えが見つかったようだ。まだ熟していない点も多いが、今後の自分の研究生活で生かしたい。そして、自分の研究スタイルに大きな変化が起きていることに気付いた。政治学中心に問題を考えたかつての研究手法から少しずつ離れている自分が不思議に感じる時もある。今までの研究を円満に終えた上、様々なディシプリンを取りいれた新たなスタイルで今後の研究に取り組みたい。


最後にITP事業でたくさんお世話になったスラブ研究センターの越野さん、IERESのHenry Hale教授、そしていつも熱心な研究指導を下さったITP事業の責任者—松里先生に深くお礼を申し上げたい。




(Update:2010.08.16)





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