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第1回 英語論文執筆講習会開催される(2008年5月31〜6月1日)3月の英語キャンプに続くITP事業の企画として、若手研究者を全国から招聘して、5月31日から6月1日にかけて英語論文執筆講習会がおこなわれました。そのプログラムは次の通りです。 [5月31日]
09:00—12:00 英文執筆講習会 “For Clarity and Grace”–I [6月1日]
09:00—12:00 英文執筆講習会 “For Clarity and Grace”–III テリー・コックス教授(Europe-Asia Studies 編集長) このうち、英文執筆講習会“For Clarity and Grace”は、北大の元・現教員であるアンソニー・バックハウス教授とポール・ステイプルトン教授を講師とし、受講者自身が書いた論文を素材として英語作文法と文体論を学ぶものでした。このため受講者には未校閲の原稿の事前提出が求められ、また個別指導にできるだけ近づけるために、授業は2グループに分かれておこなわれました。 実際の論文執筆と投稿の技術を学ぶ講習“How to Get Published?”は2部に別れ、初日は、欧米への雑誌への投稿経験が相対的に多い松里、および若手から久保慶一、安達祐子両氏が報告者となり、投稿成功談、失敗談を自分の体験に基づいて語りました。 講習会のクライマックスは“How to Get Published?”の2日目で、Slavic Review の前編集長(1995—2005)ダイアン・P・コーエンカー・イリノイ大学教授(彼女への松里の敬愛の念 については、センター・ニュース2005年冬号のエッセイ参照)、Europe-Asia Studies 編集長のテリー・コックス・グラスゴー大学教授を講師として、日本からこうした欧米一流査読誌への投稿・掲載を抜本的に増やすための方策を検討しました。 両教授の講演は非常に対照的で、コーエンカー教授は、Slavic Review の経験に基づきつつも、学術論文とはいかにあるべきかのついての自説を縦横に展開したもので、「書く」ということに対する姿勢が英語圏ではこれほど厳しいのかということを改めて思い知らされました。これに対し、Europe-Asia Studies は、冷戦終了後の学術のグローバル化を推進し、特に旧共産圏やアジアのスラブ研究者の業績を国際化する上で手柄が大きかった雑誌です。この雑誌なしには、政治学に例をとればウラジーミル・ゲリマン、グリゴーリー・ゴロソフなどがこんにちほど知られていることはありえなかったし、日本では私、雲和広氏、大串敦氏などが恩恵を受けています。今回も、コックス教授が日本からの投稿をますます増やす狙いで来日したのは鮮明であり、あくまで Europe-Asia Studies の編集経験に基づいたフレンドリーな講演でした。たとえば、コーエンカー先生は、Slavic Review は若手研究者には書評を頼まないとおっしゃるのに、コックス教授は、書評は大学院生が一流ジャーナルに載る好適な入り口であると呼びかけるなどです。私は、コーエンカー先生と同じく、幅広い知識を要する書評はむしろ年配の研究者向けの仕事であると考えているので、Europe-Asia Studies の呼びかけはちょっと意外でした。 ところで Europe-Asia Studies は、スラブ研究以外も含む地域研究系の雑誌の中で9番目 の「インパクト」を誇りながら、他方ではその原稿採択率(掲載数を投稿数で割った%)は50%、つまり一流誌としては例外的な高さです。コックス教授がこれを紹介すると、若手研究者の多くが心を動かされたようでした。ちなみに、Slavic Review の採択率は4分の1、Acta Slavica Iaponica でさえ3分の1です。つまり、採択率だけを見れば、Acta Slavica Iaponica よりも Europe-Asia Studies に通す方が易しいのです。もちろんそんなことはありえませんから、弱い執筆者がはじめから投稿しないように discourage する何か秘訣があるのだろうと私は質問したのですが、コックス教授は教えてくれませんでした。 こうした講演を受けた討論も、「英語力の不足はどの程度不利な要因になるのか」「日本人の投稿から学術文化の違いは感じられるか」「採択率の季節変動はあるか(!?)」といった、日本人が欧米の雑誌に投稿するに際して直面する主体的な問題を講師にぶつけるもので、日本の若手研究者の静かな闘志が感じられました。その後、居酒屋に場所を移して歓談となりましたが、日曜日の夜であったため居酒屋も鷹揚で時間制限がなく、ほとんど深夜まで受講者は講師を放しませんでした。その後、私はコックス教授とグラスゴーで会いましたが、日本の若手研究者からは非常に良い印象を受けたようです。私は、過密スケジュールで来日しながら若手と深夜まで付き合う一流誌編集者に、やはり雑誌の編集は無限の体力と好奇心がなければ務まらぬと感心した次第です。 こののちコックス、コーエンカー両教授は、青島陽子研究員のつきそいで京都大学での企画へと転戦しました。このセミナーは、京都大学大学院人間・環境学研究科の三谷惠子教授のご尽力で実現したもので、同研究科、京都大学地域研究統合情報センター、スラブ研究センターの共催で、6月4日、「海外学術ジャーナルに掲載される英語論文を書くには?:問題の所在と対策」と題しておこなわれました。両教授に加え、人間・環境学研究科で英語教育に携わる藤田糸子先生にもご参加いただき、スラブ研究に限定することなく人文社会系学問一般の問題として語っていただきました。参加者は想定されていた30名をはるかに超え80名に達し、このようなセミナーを待ち望んでいたのは若手スラブ研究者だけではないことを示しました。 * * *
[関連記事]1.ダイアン・P・コーエンカー教授(Slavic Review 前編集長)講演 2.参加者の感想
■「投稿先をまず研究せよ」杉浦史和
■「約束事にもっと敏感であろう」平松潤奈
■「欧米の雑誌が身近になった」濱本真実
■「簡潔の要を再確認」島田智子 3.論文集への歴史的決着? ——講習会を終えて考えたこと 松里公孝 |
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