ITP International Training Program



第1回・第2回「北海道ラウンドテーブル(Hokkaido Roundtable)」を組織して


佐藤 圭史

(ITP第4期フェロー、派遣先:ハーヴァード大学ディヴィス・センター)[→プロフィール




『欧米への憧憬の念:第1回ラウンドテーブルの感想にかえて』⇒[click] 【プログラムはこちら】
『二つの一週間:第2回ラウンドテーブルの感想にかえて』⇒[click] 【プログラムはこちら】
【第2回北海道ラウンドテーブルの音声記録はこちら ⇒(現在準備中)】




 この報告では、特に翌年度に派遣される方のために、研究会を組織・運営する上での注意点など、技術的な面についてお伝えしたいと思います。


 「ラウンドテーブル(研究会)の組織」は、ITPの課題の中でも、最も大変なものだと思われるかもしれません。こちらにいらっしゃればわかることですが、ディヴィス・センターに集う海外からの優秀な研究者達ですら、センター内で研究会を組織することはおろか、発表の機会を与えられることはほとんどありません。つまりは、彼らですら手にすることのできない機会を、私たち、経験の浅い若い日本人研究者が特権的に得ている、ということになります。芸術の世界でもそうですが、才能や実力、アイデアがあっても発表や創作の場を与えられない人が数多く存在します。シナリオの構想、出演者の選考、舞台の設営、宣伝、リハーサル、そして本番と、演劇などの創作物を楽しむ気持ちで取り組んではいかがでしょうか。またとない自分自身を表現する舞台です。及び腰で取り組むべきものではないでしょう。
 しかし、会場設営上の問題や、主催者側の意向、出演者との交渉段階でのトラブルなど、演劇の準備段階で起こりうることは、ここでも等しく起こることが予想されます。以下に、ディヴィス・センターで研究会を組織する上での注意点を書いていきたいと思います。


研究会(ラウンドテーブル)の構想は日本出発前に

 ディヴィス・センター到着直後に、プログラム=コーディネーターと会い、研究会のテーマについて話し合うことになります。少なくともその時点で、どのような研究会を組織したいのか、アイデアを伝えられるようにしてください。構想をまとめた1ページ程度の文章をあらかじめ作成しておくと、後々、発表者への招待状を作成する時に楽になります。  またこの時に、誰がディヴィス・センター側の責任者となるかを決めます。自身の研究分野に近い方をあらかじめホームページで確認しておいてください。特にいなければ、現センター長のマーチン教授か、前センター長のコルトン教授にお願いすることになります。選定した責任者の方が、研究会の議長、司会者を務めることになるでしょう。



研究会の日程は、「12月第1週」か「2月第1週」の、ほぼ二択になります

 ITPの派遣は早くて6月ですが、こちらの方はすぐ夏休みに入ってしまうために、研究会に向けた実質的な活動はできないと言えます(先方から、夏休み明けに相談してくれ、という返事を受けることもママあります)。8月末から本格的に活動を始めた場合、最短で12月の第一週の開催となります。12月半ばから1月末までは冬休みです。日本での年度末予算3月締めを考慮した場合、12月を除けば、残りは2月の第一週しかありません。
 時間は16:15~18:00か、12:15~14:00の二通りです。16:15開催の場合は、学生が来やすいのですが、前任者の方も書いている通り、17:00以降の参加者数が激減します。招待者を優先させる以上、自分が発表する後半ではほとんど人がいなくなります。12:15開催の場合は、途中で去る人は少ないのですが、授業が入るために学生を含め参加者は少なくなります。それぞれの時間帯には一長一短がありますのでご注意を(時間帯にかんして、いま一つ大きな問題があります。そのことについては佐藤に直接お尋ねください)。
 ディヴィス・センター側から協力と理解を得られず、残念なことですが、これ以上の長い時間で研究会を実施することはできません。自分の場合は、半日(12時から17時)構想であった研究会を、第1回、第2回に分けて、それぞれ別の日に開催することで乗り切りました。



研究会の形式は三通り考えられます

 ディヴィス・センターで開催できる形式としては、フォーマルな研究会(二、三名の発表者と討論者)、ラウンドテーブル(三名の発表者と司会者)、講演会(一名の発表者と司会者)が考えられます。
 自分が組織した第1回目はフォーマルな研究会、第2回目はラウンドテーブルとなりました。もともと、第1回目もラウンドテーブルを予定していたのですが、自分が「論文」相当のペーパーを事前に提出したことによって、他の発表者にも火が付き、最終的にはフォーマルな研究会をやる、という流れになりました。事前に提出されたペーパーをもとに、各発表者が25分程度話し、そこに討論者が加わり議論を盛り立てる、といった感じです。第1回の反省点は、発表者が4名と多かったために、聴衆から質問、コメントを受ける時間がほとんど無くなってしまったことです。議論があまり得意で無い方はこの形式が良いかもしれませんが、その場合は、かなり早い段階(遅くても8月末に)に、「フォーマルにやりたい」旨(具体的な研究会の構想や内容など)を、発表者と討論者、ディヴィス・センター側の責任者に伝えなくてはならないでしょう。また、ペーパーを出すことは負担が大きいので、書く側にせよ、読む側にせよ、参加者からの理解が必要です。
 第2回はラウンドテーブル形式に従い、各スピーカーが15分程度見識を述べて、残りの1時間をフルに使って会場の参加者も含めて議論を行う、という形でした。ペーパーを必要としないので発表者の負担は軽くなります。このため、12月半ばに企画し、2月初めに開催という、短期間で組織、運営することができました。ただ、ペーパーを要求しない代わりに、ネィティヴとの議論に加わることのできる高い英会話力が必要となります。
 こちらの方も一長一短がありますので、どのような形式が自分にあっているか、早い段階で決めたほうが良いでしょう。



発表者・招待者の選定

 自分はアメリカの学会に馴染みがなく、自分のテーマに合った専門家をあまり知りませんでした。ゼロから研究者を探す時に注意したいのは、他の人に専門家を紹介してもらうのはできるだけ避けた方が良い、ということです。後々になって気づいたことですが、アメリカでは「友人の友人は友人ではない」といった雰囲気があります。少なくとも自分の例では、全ての「ご紹介」による約束は反故になってしまいました。
 第1回目の研究会では、英国でお世話になった教授、ストックホルムのICCEES世界学会での発表で知り合った教授、ビックネームの教授、の三名を呼ぶ予定でした。第2回目の研究会では、アメリカで有名な学会の前年・前々年の大会プログラムを調べ、研究会のテーマに合って、かつ、興味深いタイトルで発表した研究者を探し出すことにしました。
 いずれにせよ、是非会ってみたい、これを機会にもう一度会ってみたい、という人にコンタクトを取るべきでしょう。



ディヴィス・センターが研究会と派遣者に求めているもの

 ディヴィス・センター主催の研究会に参加して気付いたことですが、共産圏崩壊後のスラヴ諸学の動向を反映しているかのように、停滞した、新鮮味の無い、小手先の研究発表が多くみられます。聴衆が途中で去る、寝るというのが常態化しています。外れの多い研究会が組織されているためか、それぞれの研究会への参加者数が絶対的に少ないとの印象を受けます。
 ディヴィス・センターにとって、日本の若手研究者に研究会を組織する特権を与えることへの「見返り」は、このような停滞感を打破する新しい分析角度や、驚くような研究手法を提示してもらう、ということにあるのかもしれません。コルトン教授から、「このラウンドテーブルはいったい何が新しいのか」と再三尋ねられました。ちなみに「北海道ラウンドテーブル」はディヴィス・センター側が勝手につけた名称ですので、異論を挟まない限り、翌年度も「北海道ラウンドテーブル」になってしまいます。深読みしすぎる参加者から、「なぜ、ホゥカァイドゥー・ラウンドテーブルなのか」と再三尋ねられることになります。変更される場合は、もうちょっと「スタイリッシュ」な名称を付けてください…。


(Update:2012.02.14)





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