11月4日に行われたBRIT (Border Regions in Transition)第14回大会(フランス/ベルギ−)の国境観光セッション"The Borders, a touristic object"に報告参加しましたので、その簡単な報告をさせていただきます。20名ほどが参加した本セッションは境界および国境と観光の関係を包括的に問うもので、様々な観点から積極的な議論が展開されました。
まず花松報告は "Developing Tsushima-Busan tour: first model of border tourism in Japan"と題して対馬の国境観光に関する動向を紹介し、近年急増する韓国人の対馬観光や昨年行った福岡発対馬経由釜山行きのモニターツアーについて報告を行いました。次にAlexander Izotov (University of Eastern Finland)は "Tourism and cross-border interaction: the Finnish-Russian border"と題する報告で、近年発展しているロシアとフィンランドの間の越境観光が、その通過地点であるロシア北西カレリア共和国の街Sortavalaの地域アイデンティティ形成に与える影響について検討しました。EU地域の国境観光に関する報告として、André Suchet (Université de Grenoble, France)の "Destinations touristiques et coopération transfrontalière en Pyrénées : concurrences et complémentarités entre acteurs, organisations et projets"報告では、フランスとスペインの国境にまたがるピレネー山脈の中でユネスコ世界遺産(自然、文化複合)にも登録されているペルデュ山での観光について紹介され、ユネスコ世界遺産エリアが二カ国で共有されているにも関わらず観光面での両国の連携が弱いため、実際にはフランス側での観光が主で、cross-border tourismとなっていないことが問題として指摘されました。またMarek Wieckowski (Polish Academy Sciences, Poland)による"Development of new cross- border tourist attractions in Poland"報告では、ポーランドと近隣諸国との国境における最近のツーリズムの発展に関する紹介があり、ドイツ・ポーランド間の越境クルーズや越境スキーリゾート、国際自然保護区域の越境ツアーの事例をもとに、積極的にcross border attractionを作っていく努力が必要であることが主張されました。一方でAndrea Szekely (Université de Reims Champagne-Ardenne, France)の"Une typologie des régions transfrontalières touristiques"と題する報告は、おもにヨーロッパにおける事例や観光学の先行研究をもとに、クロスボーダーツーリズムの9つの新たな分類を提唱しました。最後に岩下明裕(北海道大学)は"Making border tourism: Asia, Eurasia and the world"の報告で、EU以外の地域、特にアジア、スラブ・ユーラシア地域における国境の現状や、沖縄の米軍基地などの「国境」以外の境界についても紹介しつつ、そこでのボーダーツーリズムの成立可能性と形態について検討しました。
報告者の半数がフランスとの関わりの中で観光研究を行っていることもあり、また世界最大の観光大国フランスで行われたセッションにふさわしく活発な議論が行われました。"nostalgia"や"unfamiliarity", "exotic"といった概念で表されるようにボーダーを挟んだ両地域間の差異を利用して観光を促進していくこと、またそれがborderlandにおける地域経済への貢献や、borderland特有のアイデンティティ形成をもたらすことなどが共通項として確認された一方で、越境(cross-border)することが容易で当たり前となりつつある欧州のケースと、国境紛争や隣国との関係、あるいはそもそも国境が定まっていないなどの理由から越境が極めて困難なことも多いアジア、スラブ・ユーラシアの境界地域の事例では、ボーダーツーリズムの可能性や形態(越境するのかどうかなど)についても異なった観点から検討が必要なのではないかと感じました。とくに、陸続きで国境の先が目で見えるためクロスボーダーツーリズムが一般化しつつある欧州と、周りを海に囲まれて国境あるいは境界が海上にある日本では、ボーダーツーリズムがもつ意味も異なるでしょう。この違いを意識しながら、日本で唯一容易に「越境」観光ができる対馬の特長をどのように位置づけていくのか、あるいはモデルとして日本の他の地域にどのように応用していくかが私自身の今後の課題です。(文責:九州大学 花松 泰倫)