2017年4月27日、安倍首相との会談後の記者会見において、来年を日本とロシアのПерекрестные Года[交差する年]とすることに合意したとプーチン大統領は発表した。 つまり、2018年は「日本におけるロシア年」、「ロシアにおける日本年」として、政治、経済、文化を含むあらゆる領域における交流の促進が図られるということなのである。
両国関係に変化が訪れることが期待されるその2018年に先駆けて、2017年6月4日から「Russian Seasons Japan 2017」が日本において幕開けした。Russian Seasonsとは、これからロシアが世界に向けて展開していくロシア文化喧伝の一連の企画のことを指す。筆頭に選ばれた日本では、全国の40か所以上、200を超えるイベントが予定されている。
幕開けを飾ったのはボリショイ劇場バレエ団の公演だった。初日の公演『ジゼル』には安倍首相も訪れ、後日プリマ・バレリーナのスヴェトラーナ・ザハロワが首相官邸を表敬訪問した。
今年はボリショイ劇場バレエ団初来日60周年記念の年にもあたっており、日本とロシアの長年にわたる文化交流の実績を記念する意味でたいへん華々しいスタートを切ることができたといえるだろう。
ところで報告者は、6月7日に上野の東京文化会館で『白鳥の湖』(チャイコフスキー作曲、グリゴローヴィチ改訂振付版)を観劇する機会に恵まれた。ワガノワ・バレエ・アカデミーの学生時代から注目していたオリガ・スミルノワ、ノーブルな佇まいが魅力のセミョン・チュージンが主役を務めた舞台は、ロシア・バレエを愛し続けている報告者にとって、とてもひとことで感想を言い表すことはできない。ボリショイというブランドに改めて感服した次第である。
Russian Seasonsといえば、かつて20世紀初頭に世界を席巻したセルゲイ・ディアギレフが率いたバレエ団「セゾン・リュス(ロシア・シーズン)」が念頭におかれているものと思われる。しかし個人がオーガナイズしていたセゾン・リュスよりも、国家プロジェクトの様相を呈する今回の文化交流企画はむしろ1950~60年代の状況に似ている。日露の政治的な関係はつねに平穏だったとは言い難い時期にあったが、次々にやってきたソヴィエト・ロシアからの文化団体を日本の観客は喜んで迎え入れたのだ。
「芸術家は政治家や外交官ができないことも成し遂げられる」というのは、去年マリインスキー劇場で行われた日露バレエ交流を記念した展覧会での同劇場総裁ヴァレリー・ゲルギエフによる挨拶の言葉である。芸術が持つ力をよく知る人物の発言は重いものがある。
1950~60年代の文化交流においては、次々に文化団体を派遣してくるソヴィエトに対して、日本は単純に数の上で遅れをとっていた。しかし来年こそは、日本もさらに積極的に文化を発信していくことを期待してやまない。それが結果的に世界における日本の存在感を高める絶好の機会となりえるのではないだろうか。
斎藤慶子